2015 Fiscal Year Annual Research Report
高等教育における改革の普及・拡大の促進 ―緩衝組織の形成と大学の質の担保―
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15H06308
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
柴 恭史 京都大学, 地域連携教育研究推進ユニット, 助教 (80761139)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 専門職養成 / 教育改革 / 普及理論 / 高等教育政策 / 大学経営 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度には米国における大学改革の普及過程を明らかにするため、大学院協議会(CGS)が実施する理系の専門職修士号プログラム(PSMプログラム)について、予定通り調査を進めた。調査対象(CGSおよびPSMプログラム参加大学)との日程調整の都合もあり、アンケート作成・実施に先立ち、訪問調査を実施した。 今回の訪問調査ではCGSおよびPSMプログラム参加大学であるペンシルバニア州立大学を訪問したほか、PSMプログラム実施校ではないが、歴史学の大学院で類似の専門職プログラムを設置しているジョージ・メイスン大学を訪問し、各種大学院プログラムにおける発展状況を調査することができた。さらに、学部レベルでの大学改革普及の調整機関としてCGSと類似の機能を果たしていると考えられた全米大学協会(AAC&U)にもインタビュー調査を実施し、学部レベルと大学院レベルでの改革の差異やレベルの分け方について調査を行った。 大学院協議会における調査では、大学に対する普及と社会全体における認知とは大きく異なることが示唆された。 ペンシルバニア州立大学においては、PSMプログラムにも参加しているバイオテクノロジーや統計学のプログラムだけでなく、ビジネススクールやロースクールにも訪問し、従来から専門職修士として確立してきたMBAや法曹養成における現状について調査することができた。 また、ジョージ・メイスン大学の歴史学専門修士のプログラムにおいても、博物館等のインキュベーターや高校の社会科の教員など、限定された領域における専門性が重視されており、米国においても人文・社会科学系の専門職養成の領域では今後の成長性に一定の困難があることが見受けられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究計画としては、PSM参加大学に対するアンケートを実施する予定であったが、CGSからのさらなる情報収集と参加大学からの予備調査の充実のため、先行して現地への訪問調査を実施した。 本調査においては、CGSの担当者からPSMプログラムの状況等を教示いただくとともに、各大学のPSMプログラムの個別の実情を把握することができた。本研究の当初の仮説ではCGSをモデル化した「バッファ・ボディ」の機能について、漠然と社会と大学との仲介役をするものと想定していたが、今回の調査においては、バッファ・ボディを仲介した社会と大学の関わりと、各大学での個別のプログラムと企業等との関わりではその内容が大きく異なることが明確となった。 時間的な問題から予定していたアンケート調査自体は実施できなかったが、訪問調査の実施によって画一的なアンケート調査のみでは把握できない大学ごとの違い、とくに大学内での教員間の見解の差異について把握することができた点で当初予定以上の成果を得られたと言える。 また、PSMの実施には米国の専門職養成全体の現状が大きく影響していることは事前に明らかとなっていた。今回の訪問調査ではPSMプログラムだけでなく、ビジネススクール・ロースクールなどの従来の専門職養成における変化と、人文社会系における新たな専門職養成の動向についても調査を行うことができた。PSMプログラムのみを対象とした調査だけでは把握できなかった分野ごとの差異(例えば人文社会系の専門職修士では相対的に専門性が強調されるのに対し、PSMなどの理系プログラムではむしろ社会とのコミュニケーション性の向上が重視されている等)と共通性(いずれの領域でも社会からの要求、とくに学生の需要がプログラムの成立に強く影響している等)についても把握することができた。 この点も含め、全体として当初の計画と同等の進展が得られたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の調査においては、専門職教育プログラムが実施される際に、各大学の多様性と分野ごとの特性の差異が確認された。とりわけ、微妙な差異はあれど人文社会系のプログラムでは専門性を高める方向に、理系のプログラムでは社会とのコミュニケーション性を高める方向に発展していることは、専門職養成において重視するポイントがきわめて分野依存的であり、なおかつ社会の影響度がきわめて高いことが再確認されたと言える。したがって、今後も社会と大学の間の情報交換・連携機能をいかにして充実させるかを明らかにしていきたいと考えている。 とくに、本研究の目的は、多様な大学においていかにして共通性を持ったプログラムを形成しうるのか、そしてその際バッファ・ボディがいかなる役割を果たすのかを明らかにすることである。この目的に鑑みると、単純に各大学に画一的なアンケートを配布するよりも、プログラムに関与している教員がどのような経緯で参画することになったのか、そしてCGSがバッファ・ボディとしてどのようにプログラムをコントロールしているのか(あるいはそもそもコントロールではなく別の役割を担っているのか)について、むしろ質的な調査が必要であると考えられる。 今後はアンケートの実施可能性を検討することと並行して、CGSおよび各大学の教員に対する直接のコンタクトによって、より詳細な状況を把握することを目指す。 また平成27年度は調査に注力したため、研究成果の発信が学会発表のみに留まり、不十分であった。次年度はこれまでの研究成果を学会発表はもちろんのこと論文の形でも積極的に発信していくことを目指す。
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Research Products
(2 results)