2015 Fiscal Year Annual Research Report
数学基礎論と量子基礎論の圏論的統合と機械学習における圏論的双対性へのその応用
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15H06313
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
丸山 善宏 京都大学, 白眉センター, 助教 (20761290)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 圏論的双対性 / 圏論的論理 / スキーム論 / 非可換普遍代数 / 圏論的量子力学 / 量子基礎論 / 再生核ヒルベルト空間 / 数理哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトにおける「圏論的統合」は主として二つの意味を含有する:即ち、数学基礎論的な空間概念(トポス等)と量子基礎論的な空間概念(ヒルベルト空間の圏やその圏論的抽象化)の圏論的論理的な統合と、数学基礎論におけるストーン型双対性と量子基礎論における非可換双対性の双対性理論的な統合である。前者のための研究プログラムが近年の拙著で素描してきた「圏論的普遍論理」であり後者のための研究プログラムが「スキーム論的双対性理論」である。以下では研究成果の概要をこれら二項目に分けて纏める。
(i) 圏論的論理には幾つかのパラダイムがあるが「圏論的普遍論理」はLawvereのhyperdoctrineの概念の普遍代数化をその基礎としておりそれにより直観主義論理や量子論理から様々な部分構造論理に迄至る広範な種類の論理概念を統一的に扱うことができる。一階論理に対しては既出版論文において様々な論理体系の統一的な圏論的意味論を与えた。トポスに対応する高階直観主義論理のような、高階論理に対する統合的意味論は未構築であったが、今回、直観主義論理のトポス意味論を単なる一例と化すような、一般の高階論理の圏論的意味論を構築した。
(ii) 圏論的双対性の一般理論には、普遍代数に基づく自然双対理論、ヤヌス対象(aka. schizophrenic object)の概念に基づくJohnstone-Dimov-Tholen理論、他にも以前拙著でChu空間論を基礎として構築したpoint-set spaceの一般概念とpoint-free spaceの一般概念の間のChu双対性理論などがある。だがこれらの多くは量子基礎論におけるような非可換双対性を十全には扱えず近年の双対性理論の挑戦課題となってきた。今回、代数幾何学におけるスキームの概念を普遍代数的に拡張することで広範囲の非可換代数構造を扱える双対性理論を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
圏論的普遍論理による高階論理の普遍的意味論は、基本的には一階論理を表現するための諸条件にたった二つのごく自然な条件(型理論を表現する基礎圏における冪対象の存在と関手としてのhyperdoctrineにおける真理値対象の存在)を加えることでできており、重要なパラダイムケースである直観主義論理のトポス意味論の完全性をそのインスタンスとして直ちに帰結するのに加えて、これ迄未知であった様々な種類の論理に対する高階の圏論的完全性を新たな結果として導くものであり、高階論理の圏論的意味論として十全な性質を備える真正なものと考えられる。
スキーム概念の普遍代数的拡張による双対性理論は、代数の層を双対空間の上に載せることにより極めて一般的な双対性理論の構築が可能となることを具体的に示すものだが、単にそれだけに留まらず、そもそも双対空間を構成するときにどれだけの非可換性の情報を用いるかによって理論構築の分岐が生じ、双対空間それ自体の複雑性とその上の層構造の複雑性の間に存在するトレードオフをquantaleに対する双対性などの新しい具体例と共に明確に例示するものであり、層構造による双対性理論の可能性とその限界について様々な具体的示唆に富んだものである。
以上に理由により当該研究の進捗状況は総じて順調であると結論付ける。但し、本研究は当該理論の概念的意味を解明することに特に重点を置いたものでその点では望外にさえ順調なものであるが、同時に理論の実践的意味を示す為に応用例をさらに豊富にするという課題は残っており、とりわけ双対性の意味を如実に示すキラーアプリケーションの存在が今回の研究課題の延長線上にあるロングタームのゴールとして肝要なものであると考えている。研究課題後半の機械学習における圏論的双対性はそういった方向性を横目に睨んだ一つの企図である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はさらに応用面の研究課題である機械学習における圏論的双対性について考究を進めてゆく。基本的なアイデアは、機械学習におけるカーネル函数をChu空間と見なしそれらの圏を考えることで、再生核ヒルベルト空間の圏との間の双対性を確立することである。即ち、機械学習においてカーネル函数と再生核ヒルベルト空間の関係は具体的構成法により素朴に捉えられているが、その関係性を圏論的双対性という数学的に厳密かつ概念的に洗練された形ではっきりと定式化するのである。その際にこれまで構築してきた双対性の一般理論から導かれる知見を縦横に用いる。既に幾つかの予備的結果を得ており最終的に適切な圏論的双対性を確立する迄の見通しは立っている。
こういった方向での研究には、機械学習におけるカーネル法(例えば所謂「カーネルトリック」)が実は双対性の一適用例に過ぎないことを実証するという目論みがある。ガロア理論からフーリエ解析に至るまでその背後の原理的メカニズムには双対性が在ることが純粋数学では良く知られているが、機械学習のような今をときめくトレンドテクノロジーでさえ実は双対性という時流によらぬ普遍的な数学原理に支えられたものである、そういった背後にあるメッセージをより説得的なものとするためには、得られた圏論的双対性の知見によりさらに元の機械学習テクノロジーを改良するなどして具体的実践的な形でその意味を探ってゆく必要もあると(ロングランでは)考えられる。
本研究課題の応用面での目的は、双対性の一般理論の知見を応用して機械学習における具体的な双対性を得るということでありカーネル函数と再生核ヒルベルト空間の間の圏論的双対性の構築それ自体に焦点がある。しかしその次なる展開として具体的な圏論的双対性を実際のテクノロジー実践へさらに応用するという二重の応用の方向性をも念頭に置いた上で双対性それ自体の研究を進めるということである。
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Research Products
(3 results)