2015 Fiscal Year Annual Research Report
吹抜と大垂壁付き架構を有する伝統木造住宅の合理的な耐震補強法の提案
Project/Area Number |
15H06322
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉野 未奈 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80758368)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 伝統木造建物 / 大垂壁 / 吹抜 / 構造調査 / 静的加力実験 / 耐震補強 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、吹抜を有する伝統木造住宅が建ち並ぶ宮崎県日向市美々津町(以下、美々津)に立地する住宅の耐震性能評価を行った。架構の配置や寸法といった構造的特徴を分析するとともに、1/30radでの1階の層せん断力を建物重量で除した降伏ベースシア係数を耐震性能評価の指標とした分析を行った。分析によって、美々津には1列型および2列型の平面を有する住宅が存在し、2列型の住宅のほうが降伏ベースシア係数が小さい傾向を明らかにした。 次に、住宅の固有振動数に基づく地震時挙動の分析を行った。地震時の住宅の固有振動数が住宅の変形角に依存して低下すること(固有振動数の振幅依存性)を、京都市に立地する京町家3棟の地震観測記録から示すとともに、木造軸組架構の振動台実験や静的加力実験結果にも同様の関係が成り立つことを明らかにした。それらの観測・実験結果をもとに、伝統木造住宅の固有振動数の振幅依存性を表す動的変形特性評価式を構築した。更に、動的変形特性評価式と常時微動計測結果から得られる固有振動数に基づく簡易最大応答変形評価法を提案した。 また、入力地震動が住宅の応答に与える影響を分析するための足がかりとして、平成27年度は全世界で得られたパルス性地震動を分析し、地震動の卓越周期、最大地動速度、継続時間の分布を調べた。更に、パルス性地震動をインパルス入力に特性化し、インパルス入力に対する線形1自由度系の応答理論解に基づき、パルス性地震動に対する簡易最大応答変形評価法を提案した。 最後に、吹抜と大垂壁付き架構を有する伝統木造住宅の効果的な耐震補強法と、耐震補強の配置を提案するために、既往の大垂壁付き架構の実験結果を分析し、柱が折損して鉛直支持能力を失う要因と、効果的な耐震補強法について検討した。そして、有効と考えられる耐震補強方法を考案し、補強前の試験体と補強後の試験体の2体を製作して、現在、実験を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度では、美々津に立地する吹抜と大垂壁付き架構を有する伝統木造住宅の構造的特徴を分析するとともに、降伏ベースシア係数を指標とした耐震性能評価を行った。これらの結果は、日本建築学会大会に投稿を行うとともに、全文査読論文への投稿に向けて準備を進めている。住宅の構造的特徴の分析や耐震性能評価は、平成28年度に実施する住宅の3次元立体骨組解析モデルの構築の足がかりとなる重要な結果である。更に、複数の重要伝統的建造物群保存地区に赴き、吹抜と大垂壁付き架構を有する伝統木造住宅の実態把握を行った。 また、住宅の固有振動数を用いた地震時挙動の分析と簡易最大応答変形評価法の提案については、体系だった成果が得られ、全文査読論文である日本建築学会構造系論文集に投稿中である。更に、世界木質構造会議(World Conference on Timber Engineering)への投稿を行い、Abstractが採択されたため、Full paperの投稿に向けて執筆中である。 パルス性地震動の特性値の分析については、日本建築学会近畿支部耐震構造研究部会シンポジウムにて得られた成果を発表した。パルス性地震動に対する簡易最大応答評価法の提案については、地震工学会年次大会、日本建築学会近畿支部研究発表会、日本建築学会大会の複数の学会発表に投稿している。 大垂壁付き架構の耐震補強法の検討については、過去に行った大垂壁付き架構の実験結果の分析から平成27年度中に耐震補強法の着想を得て試験体を2体製作し、現在、実験に取り組んでいる最中である。 以上より、研究発表においては複数の成果を挙げ、概ね順調に研究が進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
吹抜と大垂壁付き架構を有する伝統木造住宅の立体骨組解析モデルを用いた地震時挙動の分析、耐震補強の実験的検証と補強法の提案、研究成果の発信を行う。 まず、耐震補強を要する箇所を特定するために必要な、各地域の代表住宅の地震時挙動を明らかにするために、平成27年度の分析を踏まえて京都、美々津などの地域に立地する代表住宅の立体骨組解析モデルを構造図面に基づいて作成する。作成した解析モデルは、常時微動計測結果から得た振動モードと比較を行い、妥当性を検証する。解析モデルに対して、まず設計で用いられる告示波を入力し、住宅の構造的特徴が架構に生じる応力や最大変形角に及ぼす影響を把握する。次に、パルス性地震動や長周期・長時間継続地震動の想定地震動、平成27年度に分析した卓越振動数、継続時間、振幅の3つの特性値を変化させた単純化したパルス性地震動を入力することにより、様々な入力地震動に対する地震時挙動を把握する。 次に、吹抜と大垂壁付き架構を有する伝統木造住宅の効果的な耐震補強法と、耐震補強の配置を提案する。既往の大垂壁付き架構の実験結果を分析し、柱が折損して鉛直支持能力を失う要因と、効果的な耐震補強法について検討する。そして、平成27年度より継続している耐震補強前の試験体と、耐震補強を行った試験体の静的加力実験により、耐震補強効果を実験的に検証する。それとともに、静的加力実験結果の骨組解析モデルによるシミュレーション解析を通じて、架構の応力状態や破壊メカニズムを詳細に分析する。更に、各地域の代表住宅に対して、耐震補強を施した立体骨組解析モデルの時刻歴応答解析により、柱が折損しても構面内で鉛直荷重支持能力を確保し、住宅の倒壊を防ぐことができる有効な耐震補強法を明らかにし、合理的な耐震補強材の配置を提案する。 研究成果は、世界木質構造会議(WCTE)で発表を行うとともに、全文査読論文へ投稿する。
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Research Products
(5 results)