2015 Fiscal Year Annual Research Report
朝鮮漢文学との交渉を中心とする近世日本漢詩史の再検討
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15H06351
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
康 盛国 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (00756455)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 漢詩 / 朝鮮通信使 / 自鳴鐘 / 新井白石 / 白石詩草 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、「朝鮮漢文学との交渉を中心とする、近世日本漢詩史の再検討」という研究課題のもと、17~18世紀における日朝間の文学交流に注目して研究を進めている。2015年度には、とくに新井白石の『白石詩草』を分析した。 『白石詩草』(正徳2年刊)は、白石の詩99首を収録した漢詩集である。『白石詩草』が編まれる過程については李元植『朝鮮通信使の研究』(思文閣出版、1997年)に詳しい。李元植氏は、この詩草が編まれた背景に文事をもって朝鮮通信使を圧倒しようという白石の意図があったと主張する。申請者は、白石のこのような意図を考慮しつつ『白石詩草』に収録された漢詩を分析した。その中でも、とくに第一首目に収録された「自鳴鐘」に注目した。この詩は自鳴鐘の外観・構造・鐘の音などを、中国の故事を盛り込みながら描写したものであるが、人間の技術に関わるものを素材としたという点で、同詩草のなかで異彩を放つものである。自鳴鐘は本来西洋からの宣教師が来日の際に持ち込んだものであるが、日本固有の時刻体系(不定時法)に合わせて改良した日本製の時計が白石の時代には流布していた。申請者は詩語の分析を通して、彼が詠んでいるものが、日本製の時計であることを明らかにした。また、この詩が盛唐の詩において多用された詩語を駆使していることを究明した。申請者は、このようなことを踏まえて、白石が「自鳴鐘」詩を詩集の冒頭に収録した背景に、この詩集の第一読者であった朝鮮からの使節たちにむけて日本の技術力および自身の詩才を誇示しようとする意図があったことを証明した。白石が盛唐詩風の漢詩を作った背景に、盛唐の詩を高く評価した朝鮮通信使の存在があった。このことは、18世紀日本において盛唐詩風の漢詩が流行する背景に、朝鮮通信使の影響があった可能性を示唆する。申請者は今後、その可能性を究明していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者の昨年度の研究はおおむね順調に進んだと考える。『白石詩草』の分析を通して、白石が漢詩を作る際に、この詩集の始めての読者であった朝鮮の文人たちを意識していたことが明らかになった。これは朝鮮の漢詩人との交流が日本漢詩に影響した一例であり、「朝鮮漢文学との交渉を中心とする、近世日本漢詩史の再検討」という研究課題に合致する意義のある成果だと考える。さらなる事例の究明を通して、近世日本漢詩における朝鮮漢詩の影響力のあり方をあきらかにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者は、今後、『詩人要考集』(1695年刊)を分析する予定である。1636年の通信使・クォンチクは、来日当時に林羅山より「詩学教官」と認識され詩才を認められたが、クォンチク自身の鑑賞用のために中国の名詩50首を選んで筆写した写本が、のちの1695年に『詩人要孝集』という題で刊行された(具智賢「クォンチク撰『詩人要孝集』の日本への伝来と刊行の意味」『瀛洲語文』第18輯、2009年8月)。『詩人要孝集』は、「朝鮮学士菊軒撰」というように朝鮮の詩人によるものであることを全面的に打ち出した学詩書であるため、朝鮮通信使との漢詩交流を念頭においている日本の詩人が参考にした可能性は高い。さらに序文に「唐詩は片句も以て法とするに足る」と述べられ、唐詩風を推奨する立場が表れている。申請者は本書の分析を通して、日本における盛唐詩流行の背景に、朝鮮との接触という要因がどのように働いているかを究明することを目標とする。
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