2015 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫由来素材「ラック」の文化財及び美術工芸への利用促進のための調査研究
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15H06545
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
北川 美穂 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 研究員 (60622537)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | ラック / 天然樹脂 / シェラック / ラック色素 / 天然色素 / 昆虫由来素材 / カイガラムシ / 臙脂 |
Outline of Annual Research Achievements |
・2016年1月、インド、グジャラート州ブージ郊外のAjrakh工房で、地元で採取された天然ラックを使い、複数種の絹とウール布地への染めの実験を行った。ブージ北部Nironaでは、弓旋盤の摩擦熱で固形ラックを溶かす木工塗装品製作の現場を見学。ブージ市内では地元工芸品を展示する博物館を見学し、ラック製品を確認した。ジャールカンド州ラーンチでは、インド天然樹脂研究所と、近郊にあるラック精製工場、養殖農家、天然樹脂研究所以外のラックに関わる機関などを調査し、今年の収穫品の質(良好)、価格などを確認した。 ・2月13日、インド天然樹脂研究所、中国林業科学院資源昆虫研究所、日本セラック協同組合のご協力を得て、京都府立大学内稲盛記念会館にて第一回ラック研究会・講演会を開催した。基調講演を渡辺弘之先生(京都大学名誉教授)、一般講演を沓名弘美氏(日本画家)、久保敦子氏(ブータンゆっくり勉強会ヤクランド主宰)と申請者。講演者それぞれと日本セラック協同組合による現物展示を行い、120名以上の一般参加者を集めた。 ・2月、京都市内にて、インド産のKerria lacca KusmiとRangeeniの2種と、中国産のKerria yunanensis種のラックを用いての、同条件下での絹地への染め比較実験を行った。同じKerria laccaであるKusmiとRangeeniでは顕著な色素量の差があるだけでなく、色味も異なることがわかった。 ・日本セラック協同組合にインド産、中国産ラックとその加工物について、JIS規格に則った物性試験(熱硬化速度、溶解度、ラック色素の色価など)を依頼し、物性差を数値で表せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・ブータン、中国(雲南省)、インドで養殖されているラックカイガラムシの種が異なり、それぞれの分泌物の物性も異なるだけでなく、採取や保管、加工方法も重要だという、ラックの質の差となるさまざまな要因が徐々にわかってきた。 ・インドでは少量ながら天然のラックが利用されていることも判明した。 ・第一回ラック講演会は予想を上回る来場者が訪れ、アンケート結果も大変好評で、次回の開催を期待する声も多く聞かれた。講演会を機会にラック研究会を立ち上げ、会員を募集したところ、40名ほどにご参加いただき、本年度少人数での勉強会を開催することとなっている。 ・研究会・講演会にご参加いただいた方、現地調査で知り合った方、インドと中国の研究所関係者からも新しい情報が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
・本年度は、現在ラック生産量世界2位のタイとラオス、また、昨年の別件調査でラック養殖農家が激減しているブータンで、現在の農家数、ラックの生産量、また、ラックの物性を他国と比較し、政府関係者に結果を報告する。 ・本年度の第二回ラック研究会・講演会は「ラックを科学する」をテーマに11月3日に開催する。世界最古のスティックラック「紫鑛」をはじめ、ラックを用いた工芸品を所蔵する正倉院の正倉院展開催期間中で、ラックについてより理解を深めていただけると考えている。 ・ラック研究会会員で少人数の勉強会を開催し、情報・意見交換や実験を共同で行う。内容に応じて適宜専門家をお招きしたり、アドバイスをいただくこととする。 ・各地で採取した素性の明らかなラックについて、樹脂・色素それぞれについて物性の比較を行う。分析や測定方法についてはJIS規格のほか、樹脂や色素の分析の専門家にアドバイスをいただき、必要に応じて機器をお借りしたり、測定を依頼する。ラックの質の差は何によっておきるのか、その要因を解明する。 ・日本で一般にもラックを普及させるにあたり、熱に強い塗装方法や、洗濯にも強い木綿への染めの方法を検討、実験を行い、一般向けワークショップを開催する。
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Research Products
(1 results)