2015 Fiscal Year Annual Research Report
コーチングのジレンマの解決に向けたライフスキルコーチの育成
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15H06583
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
東海林 祐子 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 准教授 (80439249)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | コーチング / ジレンマ / ライフスキル / ライフスキルコーチ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、コーチングのジレンマの解決に向けたライフスキルコーチの育成とそのしくみを取り入れたe-learning研修の開発の準備を目指している。東海林・金子(2014)はスポーツコーチングの現場で、指導者が抱えるジレンマについてゲーム理論「囚人のジレンマ」を援用しジレンマを定式化したが、望ましいコーチングのためには、指導者自身が気づきにくいジレンマを認識することが不可欠であるという仮説を立てた。本年度はその仮説の検証のために、神奈川県および福岡県の運動部のトップチームのコーチから地区優勝を目指すコーチまでの指導者を対象に、コーチングのジレンマの研修会を実施し、グッドコーチ(文科省、2015)に向けたプロセスをインタビューやアンケートによって検証した。 検証の結果、自らのジレンマを認識していたとしても、勝利への欲求が強ければ強いほど、ジレンマを抱える傾向にあることがわかった。さらに選手時代に競技力が高い選手であった指導者ほど、なかなか自らのコーチングのスタイルを変化させることが困難であった。また、高校運動部活動では特に保護者との関係でジレンマを抱えることが明らかとなったが、この関係づくりをうまく協力関係に変えて、サポートしてもらうよう促すと全体が目標に向けて効果的にまわることがわかった。しかし、保護者との溝が深まれば深まるほど、それぞれがジレンマを大きくさせる。指導者は何が正しいのか、どういう信念を持ってコーチングするべきか、迷い、苦しむ時代が続き、「放任のコーチング」か「強制のコーチング」(東海林、2014)を行き来して壁にぶつかり、なかなか進歩できないということがわかった。これは、東海林・金子(2014)の仮説を証明する結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第1ステップである指導者が持つコーチングスキルにおける暗黙知の解明については、現在、インタビューやヒアリングのデータを起こし、質的な分析を実施する準備をしている。その結果、グッドコーチ(文科省、2015)に向けたプロセスを示すいくつかの要素が見えてきた。暗黙的なコーチングスキルを検証するためには、引き続き、インタビューを実施し、その要因を深く洞察する必要がある。さらにはそのプロセスやコーチングスキルと勝利の関連も重要である。また、こうした検証結果に関して、より効果的な知見を得るためには意見交換が必要で、海外の学会で発表することが重要である。しかしながら、申請者は、昨年出産を終えて現在、子育てにも手がかかり外泊が難しいために、出張がままならない状況である。そのために、現在は、国内で時間の許す限り、スポーツ関係者に留まらず、グッドコーチを目指す指導者の人間像に共通する人格教育などを重要視する、様々な立場にある専門家と意見交換をしてグッドコーチに向けた知見を探求している。具体的には、現在、大学体育連合が主催するリーダーシップ研修会(H28.6.4)で開発した教材を活用した研修会を実施する準備をしている。ここでは、人格主義を提唱し、企業の人材育成を多く手掛ける民間企業と他大学のスポーツマネジメントの専門家、コーチング推進コンソーシアム委員などとの連携を通じて、教材を開発する準備を実施している。 次に本研究の第2ステップである教材の開発であるが、前述したように各関係者との連携を密にしてこれまでにない理解しやすく具体的なコーチングマニュアルを開発し、現場に役立つ教材の開発を目指す予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、上記にあげるステップ1とステップ2を同時進行で実施予定である。指導者が持つコーチングスキルにおける暗黙知の解明(ステップ1)については、3回から5回にかけて追跡インタビューを実施する。また、教材の開発(ステップ2)については、さまざまなフィールドで試行予定である。試行して修正を繰りかえしながら、最終的に研究の成果の一つ目として、一冊のコーチングマニュアル本(コーチングの悩みアレコレ(仮題))に収めたい。マニュアル本は次のような構成で行う。『第1章;指導者が持つジレンマの解明、第2章;コーチングスキルの獲得のプロセス、第3章;さまざまなスポーツ場面で発生するジレンマの解決の具体的事例、第4章;ライフスキルの活用の仕方とモチベーションの関係、第5章;コーチの育成の仕方』 以上のような5つの大きな章立てをして、それぞれに調査で明らかにした具体的な提案を行っていく予定である。さらにインターネット上でweb公開し、そのメソッドを紹介し、誰でも必要なときに閲覧できる状態にしたい。その後の自立した運営のためには、必要なメソッドの紹介は実施するが、例えばweb上でのアドバイスや悩み相談などに関しては、次年度以降、会員制にするなどして有益な意見交換ができるしくみを作り、今後のスポーツコーチングの方向性や教材の開発に役立てたい。 次に、成果の二つ目として国内学会(日本体育学会(大阪)、大学体育フォーラム(沖縄))と学術誌(日本コーチング学会)、および国際学会(調整中)にて研究の成果を発表予定である。
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Research Products
(2 results)