2015 Fiscal Year Annual Research Report
ヒストンバリアントH2A.Bのヒストン自己交換反応による精子核形成機構解析
Project/Area Number |
15H06691
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
有村 泰宏 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (80754697)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | ヌクレオソーム / ヒストン / ヒストンバリアント / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、精巣特異的に発現するヒストンバリアントH2A.Bの精子形成過程における機能を解明することである。研究責任者は、精巣に高発現するヒストンH2AバリアントであるH2A.Bの機能解析を行っており、H2A.Bを含むヌクレオソーム中のヒストンH2A.B-H2B複合体が、自発的に溶液中の他のヒストン複合体と置き換わる現象“ヒストン自己交換反応”を独自に発見しており、H2A.Bのヒストン自己交換反応の分子メカニズムを明らかにすることを目指している。平成27年度は、H2A.Bのヒストン自己交換反応について生化学的・構造生物学的解析をおこなった。 生化学的解析においては、様々なヒストンバリアントを用いた生化学試験によって、ヒストン交換反応がH2A.B特異的に起こる反応であることを明らかにした。さらに、H2A.BヌクレオソームにおいてはH3.1テール領域のアクセッシビリティが主要型のヌクレオソームよりも高いことを見出し、H2A.Bが翻訳後修飾の導入されやすいヌクレオソームを形成すると考えられた。加えて、変異体解析によって、H2A.BのC末端側アミノ酸配列がH2A.Bのヒストン交換反応を担うことを明らかにした。 構造生物学的解析については、X線結晶構造解析を推進するとともに、H2A.Bのヒストン交換反応にともなう構造変化をリアルタイムで解析することを目指して、X線小角散乱解析を用いたリアルタイム計測試験を新たに開始し、大型放射光施設フォトンファクトリーにて測定条件等を検討した。 このように、平成27年度の研究期間(平成27年9月~平成28年3月)内においては、ヌクレオソームの生化学的・構造生物学的解析を推進し、雑誌論文1報を報告し、国内学会口頭発表2件を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書および交付申請書に記載の計画に基づき、平成27年度は以下の研究を推進した。平成27年度は当初の計画内容の遂行にとどまらず、新たな解析手法の立ち上げにも取り組んでおり、当初の計画を上回る成果をあげている。 【研究内容I H2A.B交換反応における選択性の解析】H2A.B交換反応における特異性・選択性を生化学的手法により解析した結果、ヒストン交換反応がH2A.Bを含むヌクレオソーム特異的に起こる現象であり、交換される相手にヒストンバリアントの選択性はないことを明らかにした。 【研究内容Ⅱ H2A.Bと翻訳後修飾の関係性解析】H2A.Bヌクレオソームが、翻訳後修飾の導入に関与しうるか解析するために、数多くの翻訳後修飾が導入されるH3.1テール領域に着目した。再構成ヌクレオソームを用いた生化学的試験の結果、H2A.Bヌクレオソーム中ではH3.1テール領域のアクセッシビリティが主要型のヌクレオソームよりも高く、翻訳後修飾の導入されやすい環境を形成することが示唆された。 【研究内容Ⅲ H2A.B自己交換活性を担うアミノ酸領域の決定】H2A.Bの自己交換反応の分子機構を明らかにするため、H2AとH2A.B間のドメイン交換変異体を含む再構成ヌクレオソームを用いた生化学的解析をおこない、H2A.BのC末端側アミノ酸配列がH2A.Bのヒストン交換反応を担うことを明らかにした。 【研究内容Ⅳ H2A.Bヌクレオソームの構造生物学的解析】H2A.Bの自己交換反応の分子機構を明らかにするため構造生物学的解析を推進した。X線結晶構造解析に関しては各種条件検討の後、回折試験をおこない7オングストロームの分解能のX線回折像を得た。さらに、ヒストン交換反応にともなう構造変化をリアルタイムで解析するために、X線小角散乱解析を用いたリアルタイム計測試験を新たに開始し、大型放射光施設にて測定条件等を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は以下の研究を推進することを計画している。 【計画Ⅰ H2A.Bの自己交換反応の構造生物学解析】平成27年度に引き続き、H2A.Bのヒストン自己交換反応の分子機構を明らかにするため、H2A.BヌクレオソームのX線結晶構造解析を行う。さらに、X線小角散乱解析によってヒストン自己交換反応中のH2A.Bヌクレオソームの構造解析を行うX線小角散乱解析のためには高純度に精製した試験管内再構成H2A.Bヌクレオソームを大型放射光施設にもちこみ、ヒストン自己交換反応開始直後から経時的なX線小角散乱の変化を測定する。その後、ヒストン自己交換反応中のH2A.Bヌクレオソームに由来する散乱を抽出し、ヒストン自己交換反応中のH2A.Bヌクレオソームの構造変化を明らかにする。 【計画II H2A.Bの自己交換活性と細胞内動態の関連性解析】試験管内での生化学的解析において検出されるH2A.Bの自己交換反応が、生きた細胞の核内において観察されているH2A.BのゲノムDNA上での交換の素早さの要因となっているか解析する。このために、平成27年度の研究で同定した自己交換活性のないH2A.B変異体にGFPを融合したタンパク質を発現するヒト培養細胞を作製する。これらの細胞を用いてFRAP(fluorescence recovery after photobleaching)解析をおこない、H2A.Bの自己交換活性と細胞内動態の関連性を明らかにする。 【計画III H2A.Bと翻訳後修飾の関係性解析】平成27年度に明らかにしたH2A.Bヌクレオソーム中におけるH3.1テール領域におけるフレキシビリティの高さが、翻訳後修飾の導入に関与するかを検証するために細胞生物学的・生化学的解析をおこなう。
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Research Products
(4 results)