2015 Fiscal Year Annual Research Report
Effect of ocean acidification on molluscs shell formation
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15H06908
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
清水 啓介 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, ポストドクトラル研究員 (00757776)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 貝殻形成 / 酸性化 / 環境応答 / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
産業革命以後、温暖化や海洋酸性化といった人類がもたらした環境変化による生物への影響は深刻な問題である。そのため、水圏環境の変化に対する生物応答とその進化の理解は将来の水圏生態系動態の予測に重要であり、温暖化対策に有益な知見をもたらす。しかし、先行研究の多くは表現型への影響にのみ着目しており、その遺伝的背景や進化に関する研究はほとんど行われていない。そこで、既に表現型への影響が報告されている巻貝の仲間であるミジンウキマイマイ(Limacina helicina)に着目し、遺伝的多様性や酸性化による遺伝子発現への影響を明らかにすることを目的とする研究を行った。まずはじめに、西部北太平洋亜寒帯域にてミジンウキマイマイの採集を行い、ミトコンドリアのCOI配列を調べたところ決定した。その結果、北大西洋に生息するミジンウキマイマイとは遺伝的に分化していることが明らかとなった。また、遺伝的多様性が北大西洋の集団に比べ、非常に低く、これは氷河期におけるボトルネックによって生じている可能性が示唆された。さらに、西部北太平洋で採集した個体を将来的に予想される大気二酸化炭素濃度の海水環境で飼育実験を行い、表現型への影響を調べた。その結果、貝殻表面の顕著な溶解は見られず、マイクロX線CTによる骨格密度の測定結果からもほとんど影響が見られなかった。本結果は、環境の変化に対して貝殻の溶解を妨げるような遺伝子レベルでの応答が生じている可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、西部北大西洋での翼足類の採集を行うことができ、これまでに不明瞭であった翼足類の遺伝子レベルでの集団構造を一部明らかにすることができた。海洋酸性化による翼足類の貝殻への影響については、これまでの研究で用いられた走査型電子顕微鏡(SEM)による表面への影響評価だけでなく、マイクロX線CTを用いた骨格密度レベルでの影響評価を世界で初めて実施し、その解析手法についても確立しつつある。表現型への影響については先行研究と異なる結果が得られており、集団を考慮した解析の必要性が明確となった。今後の遺伝子発現解析の結果が本結果を解釈する上で非常に重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
非常に採集が困難な種ではあるが、今後もより多くの個体数を得るために積極的に研究船を用いた外洋でのフィールドワークを実施し、本種の集団構造のさらなる理解を進める。また、状態良く採集することができた個体については異なる大気二酸化炭素濃度の海水内で飼育実験を遂行する。さらに、表現型への影響評価に加え、次世代シークエンサーをもちいた網羅的な遺伝子発現解析を行い、環境変化によって発現が変動する遺伝子を拾い出し、その中に貝殻形成に重要な遺伝子がどの程度存在するのかを明らかにする。 また、本研究で新たに導入したマイクロX線CTを用いた骨格密度レベルでの影響評価手法の確立をめざす。
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Research Products
(2 results)