2015 Fiscal Year Annual Research Report
超高感度な固体NMRを用いた細胞内タンパク質運動性測定法の開発と応用
Project/Area Number |
15J00189
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山田 和哉 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 固体核磁気共鳴 / 細胞内タンパク質定量 / 動的核分極 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、細胞内(in-cell)固体NMRを用いた細胞内分子数の定量、細胞内分子の超高感度測定に向けた高温動的核分極法(高温DNP)のためのガラス基質の探索、細胞内タンパク質の構造情報を得るための新規ラジカルタグの合成を行った。細胞内分子数の定量研究では、大腸菌細胞を生きたまま固体NMRを用いて測定し、ユビキチン過剰発現時の1細胞あたりに合成される分子種・分子数を定量する方法論を確立した。この成果は、大腸菌を理解し制御するのに役に立ち、またシステム生物学のためのデータとなり得る。さらに、本研究で得られた測定の方法論は、固体NMRを用いた細胞内でのタンパク質構造解析へと応用できる。 高温DNPのガラスマトリクス探索では、これまで用いられてきたグリセロールマトリクスよりも高温でガラスを形成するマトリクスを見出した。200 Kで透明なマトリクスを形成するキシリトール以外にも、リボース、イジトール、ソルビトールが最大230~240 Kで透明なガラスを形成することを見出した。一方、当初予定していた中程度の分子量を持つ分子は、デキストリン、アミロース、アミロペクチンを試したが、水への溶解度が低く透明なガラスを形成しなかった。これらのマトリクスを用いれば、これまで液体窒素温度でなされてきたDNPによる感度向上が、200 K以上の高温の条件で可能となる。これにより、210 K以上での測定が必要なタンパク質の運動性に関する情報を、高感度で得られるようになる。 新規ラジカルタグの合成研究では、光励起ラジカルであるフラビンによる核スピン緩和促進効果により、タンパク質内の原子間距離を求める手法開発を試みた。フラビンの有機合成によるタグ化は未報告であり新規化合物の合成であったため、合成は難航した。しかし、各反応での条件検討の結果、目的とするタグ化フラビン分子を合成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の細胞内固体NMRによる大腸菌1細胞内の分子数の定量研究の過程で、標的タンパク質であるユビキチン分子の信号のみを抽出することができた。これにより、今後、大腸菌細胞内でのユビキチンの構造情報、さらには運動性の情報を得る準備ができた。高温DNPのガラスマトリクス探索は目標とする温度で透明なガラスを形成するマトリクスを見出した。今後は210 K以上でのDNPによる感度向上を図る。新規ラジカルタグの合成研究は、計画より合成が遅れたものの、合成は完了し、タンパク質との連結を試みる。以上より、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は、まずin-cell固体NMRを用いて大腸菌細胞内でのユビキチンの構造情報の取得を試みる。細胞のスペクトルから標的タンパク質であるユビキチン分子の信号のみを抽出し、信号の帰属を行う。その後、主鎖の緩和時間測定により細胞内でのユビキチン運動性を測定する。また、高温で透明なガラスを形成するマトリックスを用い、DNPによる感度向上の度合いを確認する。実際に感度向上が確認されれば、大腸菌細胞の系に応用し、細胞内でのユビキチン運動性を測定に役立てる。さらに、合成したフラビン化タグをタンパク質に連結し、常磁性緩和増強による距離情報の取得を試みる。
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Research Products
(3 results)