2016 Fiscal Year Annual Research Report
非磁性金属におけるナノスケール下での強磁性の発現および外場による磁性制御
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15J00298
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
櫻木 俊輔 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | Pd / ナノ磁性 / 量子井戸状態 / 表面・界面物性 / 磁性制御 / 強磁性 / 超薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、Pd超薄膜中に生じる量子井戸状態を用いることで遷移金属に強磁性が発現するメカニズムを探り、その知見を基に外場による非磁性-強磁性スイッチングを行なうことを目的としている。本年度得られた成果は以下のとおりである。 1. 第一原理計算により、Pd(100)超薄膜の磁性と結晶性の関係を議論した。前年度までに得られた実験結果との比較から、量子井戸状態によりPd(100)に自発磁化が生じる際、Pdの表面エネルギーに利得が生じることで膜構造が安定化することが明らかとなった。また、Pdは強磁性に転移する際、自発的な格子膨張を生じることで電子状態を安定化させていることが示された。これは、強磁性化に伴う格子膨張が交換分裂に伴う電子の運動エネルギーの上昇を抑制するために生じたものと考えられる。これらの結果より、遷移金属において磁性-量子井戸状態-歪みの3要素の相互関係により磁気状態が決定されていることが示唆された。 2. BaTiO3基板上にPd(100)超薄膜を成膜し、BaTiO3を介したPd層への歪みの印加による磁性制御を試みた。磁化の温度依存性測定の結果、BaTiO3の構造相転移温度にてPdの磁化の大きさが変化する傾向が見られた。これは、BaTiO3の構造の歪みがPd層に伝搬し、それによりPd中の量子井戸誘起強磁性が変調された可能性を示唆するものである。 3. HiSOR BL-1においてPd超薄膜の成膜環境を整え、Cu単結晶基板上のPd(100)超薄膜について角度分解光電子分光測定を行った。作製したPd薄膜の結晶性が悪くブロードなバンド分散が観測されたものの、5-7原子層のPd(100)超薄膜においてd電子量子井戸状態の直接観測に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Pd(100)超薄膜における構造解析実験に第一原理計算を組み合わせることにより、遷移金属における磁性-量子井戸状態-歪みの3要素の密接な関わり合いの存在を明らかにした。本発見は、金属超薄膜に生じる強磁性の起源に関する電子論的な理解を与え、金属ナノ構造の作り込みにより材料へ磁性を人為的に付加することができる可能性を与える。本年度は、本知見を基にBaTiO3基板を用いたPd(100)超薄膜への歪みの印加の実験を開始し、歪みを用いたPdの磁性制御の実現可能性を示すことが出来た。加えて、放射光施設においてPd(100)超薄膜の電子状態を実験的に評価するための準備を整えることが出来た。以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、、量子井戸誘起強磁性において歪みの印加により効率的な磁性の変調が行われる可能性が示唆された。今後、BaTiO3基板上のPd(100)超薄膜について、系に電界を印加することで歪みを制御し、外場を用いたPd(100)超薄膜の磁気モーメントの変調を実現する。第一原理計算により歪みが印加された際の電子状態の変化を議論することで、磁性の変化を電子論の観点から理解することを試みる。 また、角度分解光電子分光測定に関して、Pd薄膜の結晶性を向上させることでよりシャープなバンド分散の観測を目指す。実験結果を理論計算と比較することにより、Pdに発現する強磁性について電子系の多体効果を考慮した上で議論を行い、磁性の効率的な制御手法を探る。
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Research Products
(9 results)