2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J00469
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
庄司 佳祐 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | piRNA / BmN4 / トランスクリプトーム / エピジェネティクス / Bombyx mori |
Outline of Annual Research Achievements |
PIWI-interacting RNA (piRNA)は動物の生殖細胞内で働き、有害な転移因子であるトランスポゾンを抑制する分子である。piRNAの機能欠損変異体では、生殖巣の発育不全が観察される。しかし近年、アメフラシ神経系においてpiRNAが記憶形成に関与すること、およびキイロショウジョウバエの脳におけるゲノムの多様性がpiRNA経路の解除によるものであるという報告がなされた。さらに、カイコの性決定の最上流因子がpiRNAであるという研究結果も考え併せると、わずかにしか存在しない体細胞組織由来のpiRNAが多様な生命現象において重要な働きを果たしている可能性があると言える。 piRNAは体細胞組織にはわずかにしか存在せず、その解析がきわめて困難である。さらに、個体の体細胞組織における解析ではRNAiが容易ではないことや、様々な細胞種が混在しており現象の正確な理解が困難であるなどの問題も存在している。そのため、piRNAの産生・作用機序の解明には培養細胞を用いた単純な系でのアプローチが最適であると考えられる 本研究ではpiRNAの体細胞における働きを調査するため、piRNAを発現する卵巣由来の培養細胞を体細胞に分化させることで、体細胞piRNAの機能を調査することを目的とした。さらに、piRNAついての基礎的な情報の収集を並行して行った。 当該目的の達成のために、まずBmN4細胞の神経細胞分化誘導系を確立し、既報の脂肪細胞分化誘導系の確認も行った。この2つの体細胞分化誘導系を用いたトランスクリプトーム解析を始めとしたバイオインフォマティクス解析から、分化・未分化時のBmN4細胞におけるmRNA、およびpiRNAのプロファイリングを行った。基礎情報の収集については、piRNAが出来るための条件の調査とpiRNAの3’末端を形成する因子の特定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.細胞分化時のpiRNAの役割の解析【(1)BmN4神経細胞分化系の確立】これまでの予備実験で、BmN4細胞を神経細胞様の形状に変化させることに成功していた。そこで、神経細胞分化に関与する遺伝子のカイコホモログBmCRMP2を利用して、当該条件が本当に神経細胞への誘導条件であるかを検討した。BmCRMP2の過剰発現は、細胞の樹状突起様構造の増加を誘導し、神経細胞様分化が促進されている様子が確認出来た。このことから、当該条件はBmN4細胞を神経細胞へと分化させる条件であることが判明した。 【(2)体細胞分化させたBmN4細胞のトランスクリプトーム解析】既報の脂肪細胞への分化条件を利用して、次世代シークエンサーを用いた大規模配列取得をmRNAとpiRNAについて行った。得られた配列を用いてバイオインフォマティクス解析を行うことで、脂肪細胞分化時に発現が変化するmRNAとpiRNAを特定することが出来た。 2.piRNAの基礎情報収集【(1)piRNAが出来るための条件の検討】昨年、「センス、アンチセンスの転写を行うことでpiRNA産生が誘導される」という研究結果が報告された。私は、この研究結果に興味を持ち、公共データベースに登録されているデータを再解析した。その結果、発表されている結果の解釈の一部は正しくなく、旧来重要であると言われていたpiRNAクラスタへの挿入がやはり重要であることが示唆された。この結果を、Current Biology誌に発表した。 【(2)piRNAの3’末端形成機構の解明】piRNAの3’末端はTrimmerと呼ばれる分子によって形成されることが示唆されていたが、分子実体は長らく不明であった。私たちの研究グループは、その分子実体を特定し、Trimmer分子がpiRNAの3’末端形成機構に置いて中心的な役割を果たすことを示し、Cell誌に発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.細胞分化時のpiRNAの役割の解析【(1)体細胞分化誘導に関わる分子の同定】1年目に同定した体細胞分化に関わる分子がpiRNAのターゲットであることを確かめる。具体的にはカイコpiRNA経路の中核分子であるSiwiをsiRNAでノックダウンし、その後、体細胞系に分化させた際のmRNAの挙動の変化を調査する。さらにmodified RACE法や生化学的な解析、およびpiRNAインヒビターを用いた解析を行うことで、対象のmRNAがpiRNAによって切断されていることを確認する。以上の結果から、体細胞のみ、または生殖細胞のみでpiRNAによって抑制されているmRNAの同定を試みる。 【(2)体細胞分化に関わる分子の個体における役割の解明】候補分子が昆虫個体における細胞分化に関与することを、カイコの胚子、または幼虫・蛹へのsiRNAインジェクションもしくはTALENなどのゲノム編集技術などを用いて証明する。さらに、piRNA、およびpiRNAインヒビターのインジェクションを行うことで、昆虫個体での個々のpiRNAとmRNAの関係、および体細胞組織の分化・維持における役割を解明する。 【2.piRNAの基礎情報収集:piRNAの3’末端形成機構の解明】既に報告したTrimmer以外に、NbrやPapiと言った分子もpiRNAの3’末端の形成に関与することが知られているが、それらの間の棲み分けは不明である。そこで、これらの因子のRNAiを行った際のpiRNAライブラリを解析することで、piRNAの3’末端の形成機構について統合的な理解を得ることを目的とする。
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