2016 Fiscal Year Annual Research Report
層状酸化物熱電変換材料のフォノン熱伝導機構の解明及びその制御指針の提案
Project/Area Number |
15J00489
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤井 進 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 層状酸化物 / 熱電変換 / 熱伝導 / フォノン / 計算科学 / 分子動力学法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では層状Co酸化物熱電材料に着目し、そのフォノン熱伝導機構を解明することで、熱伝導制御指針ひいては包括的な熱電性能向上指針を提案することを目的としている。本年度では以下の4点を実施した。 1. 層状Co酸化物の熱伝導機構を体系化するため、新たにBi2Sr2Co2O9についても解析を行った。その結果、CoO2層の体積比率が26 %程度と非常に小さいにも関わらず、CoO2層が50 %程度熱を伝導していることが分かった。このことから、CoO2層が熱伝導において支配的であり、その熱伝導を隣接する層の働きによって乱すことが低熱伝導化に有効であるという熱伝導機構・制御指針がより一般的なものとなった。 2. 層状Co酸化物の熱伝導決定機構をより詳細に明らかにするため、既存の分子動力学計算パッケージを改良し、熱伝導度のフォノンモード依存性の解析を可能にした。これと格子動力学計算を組み合わせる事で、熱伝導支配因子の寄与を構成要素別に見積もることも可能にした。これにより、層状酸化物中ではフォノンはよく散乱されており熱伝導度の差は群速度に因るものが大きいと言った知見が得られており、熱伝導決定機構へのより深い理解が得られた。 3. 熱伝導低減に有効な新規構造を提案するには、層状Co酸化物のみの解析では情報が限られるため不十分と考えられる。そこで、他の酸化物やそれらの粒界構造を熱伝導解析の対象に加えた。その結果、界面の存在が空間的に広範囲に熱伝導を散乱するなど、層状Co酸化物にも適用可能な汎用的な知見が得られつつある。 4. 層状材料作成に必要な実験技術を得るため、層状構造や複雑構造を持つ熱電変換材料の作成、材料特性の測定、不純物添加等による性能向上の試みを行った。用いた作成手法や熱電特性制御手法は層状Co酸化物とも共通するものであり、新規層状材料の提案後、それらの手法を適用する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
熱伝導機構の解明については予想以上に進展したが、一方で新規構造の提案には遅れが見られ、総合すると概ね順調に進展した。以下に推進方策や研究計画に対する達成状況を示す。 1. 「Bi2Sr2Co2O9について熱伝導解析を行う。」Bi2Sr2Co2O9の結晶構造を再現可能なパラメータを第一原理計算と格子静力学計算により作成し、熱伝導解析を行った。これにより層状Co酸化物の熱伝導機構が一般化された。予定通りの進展である。 2. 「独自解析手法により熱伝導機構を詳細に明らかにする。」計算パッケージの改良は概ね完了し、熱伝導度のフォノンモード依存性の算出が可能になった。また、他の手法と組み合わせることで、比熱、群速度、緩和時間という熱伝導の支配因子の寄与を見積もることを可能とした。この解析により、今まで不明であった微視的・理論的な情報の獲得に成功した。計画以上の進展である。 3. 「低熱伝導化に有用な格子欠陥・新規構造を提案する。」格子欠陥が有用であることは明らかにしたが、新規構造については層状酸化物のみの解析では知見が限られるため困難であった。現在は他の酸化物やその粒界構造の解析を行い、構造と熱伝導に関する汎用的な知見の獲得に取り組んでおり、その後に提案を試みる予定である。粒界の計算は三年目に予定していたが前倒しで実施している。 4. 「実験による低熱伝導化手法の検証や、得られた電子特性の起源を解析する」新規構造の提案にまで到ってないためその有効性や電子特性への影響の検証は出来ず、遅れが生じている。しかし、熱電材料を実際に作製して試料作成法や性能測定技術を習熟した他、不純物添加や焼結条件による熱電性能制御法に関する知見を得た。今後新規構造の提案に到った際にはこれらを適用する予定である。また、電子特性解析に関しても、第一原理計算で材料中の電子分布を計算するなどして手法の習熟に努めた。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度までの分子動力学計算パッケージの改良により、熱伝導度の周波数依存性、フォノンモード依存性の算出が可能になった。この解析手法を引き続き複数の層状Co酸化物に適用していき、熱を輸送するフォノンを系統的に明らかにする。また、格子動力学法を併用することで、熱伝導支配因子であるフォノンの比熱、群速度、緩和時間を解析する。特に群速度と緩和時間は材料中のフォノンの伝達の速さや散乱頻度を見積もることが出来る重要な指標である。これらを層状Co酸化物間で比較し類似点と相違点を明らかにすることで、構造と熱伝導特性の関連を明確にする。得られた情報から、より理論的な観点からの熱伝導決定機構の確立や、フォノンを効率的に散乱するための材料設計指針の提案を目指す。当初は2年目で熱伝導解析を終える予定であったが、この解析により獲得できる情報が極めて有益であるため、3年目も続けて解析を行う。 また、前年度まででは低熱伝導化に有用な新規構造を提案することが困難であった。この一因として、層状Co酸化物のみの熱伝導解析では知見が限られることが挙げられる。そこで他の酸化物(MgO, ZrO2, TiOx等)やその粒界構造についての熱伝導解析を既に開始しており、それを継続して実施する。前述の熱伝導支配因子の解析をこれらにも適用することで、結晶構造や構成元素と熱伝導特性の関連を広範囲に明らかにする。得られた情報を元に、層状Co酸化物を低熱伝導化するために有用な構造の提案を目指す。 新規構造が提案できた場合、順次実験にて材料を作成して熱伝導への有効性を検証する。材料組織の影響が大きい場合には、層状酸化物における粒界モデル等を作成し、それらが熱伝導に与える影響を解析する。また、新規構造の電子的特性への影響や熱力学的安定性を第一原理計算によって解析し、熱伝導に関する知見と併せて包括的な熱電性能向上指針獲得の一助とする。
|
Research Products
(7 results)