2015 Fiscal Year Annual Research Report
交尾刺激による生殖幹細胞の増加を司るステロイドホルモンを介した神経機構の追究
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15J00652
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
天久 朝恒 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 生殖幹細胞 / 交尾 / 性ペプチド / ステロイドホルモン / キイロショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
交尾刺激は、メスに対して生殖に必要な幅広い生理的変化を引き起こす。これまでに申請者は、キイロショウジョウバエ (Drosophila melanogaster: 以下ショウジョウバエ)において、交尾刺激が卵の大本となるメス生殖幹細胞の増殖を引き起こすことを明らかにした (Ameku and Niwa. 投稿済)。しかし、交尾刺激を受容する神経および受容体については同定されている一方、その下流でどのような遺伝子が交尾刺激を卵巣へと伝えるかは分かっていない。そこで本研究は、交尾刺激と生殖幹細胞増殖をつなぐ遺伝子を探索する目的で、ショウジョウバエゲノムに存在する274膜受容体遺伝子を対象としたRNAiスクリーニングを行なった。現在までにスクリーニングを完了させ、その候補となる遺伝子群が複数得られた。
交尾依存的な生殖幹細胞の増殖に必要な遺伝子を探索するために、トランスジェニック技術 (GAL4-UASシステム)により神経および卵巣において274膜受容体遺伝子の機能をノックダウンした。それぞれの系統について交尾前後の生殖幹細胞数を測定した結果、120系統において交尾後の生殖幹細胞数の増加について異常がみられた。そのうち50系統は交尾後の生殖幹細胞の増加が抑えられ、70系統については交尾前に生殖幹細胞が増加した。得られた候補遺伝子のうち、神経および卵巣で高発現している遺伝子を絞り込むために、web 上に公開されているショウジョウバエのデータベース (Flybase: http://flybase.org)を利用して、候補遺伝子のそれぞれについて、神経もしくは卵巣での発現レベルを調べた。その発現レベルを順位付けすることによって、神経もしくは卵巣でより機能する可能性がある候補遺伝子を絞り込んだ。一連の実験により、交尾刺激と生殖幹細胞増殖をつなぐ候補となる遺伝子群を絞り込むことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究計画調書において、初年度研究実施項目として(1)卵巣濾胞細胞で機能する神経伝達物質受容体の探索および(2)性ペプチド受容体発現神経細胞で機能する神経伝達物質の探索の2つを主な研究実施項目として掲げた。このうち、項目(1)に関して、当初の計画どおりに274膜受容体遺伝子を対象とした網羅的RNAiスクリーニングを完了させた。その結果、交尾依存的な生殖幹細胞増殖に関わる可能性がある候補遺伝子を多数得ることに成功した。また、この候補の中から神経伝達物質受容体を含むいくつかの膜受容体遺伝子に注目して詳細な分子遺伝学的解析を実施し、生殖幹細胞増殖における重要性を示唆する興味深い知見を得た。その中でも特に、神経ペプチドであるNeuropeptide Fと自然免疫を制御するTollシグナル経路が交尾依存的な生殖幹細胞増殖に関わる有力な候補であることが示唆された。
項目(2)については、神経伝達物質遺伝子の突然変異株系統を用いた解析により、生殖幹細胞増殖の必要な神経伝達物質の候補をいくつか絞り込むことができた。現在はこれらの神経伝達物質の一部が性ペプチド受容体発現神経で産生されているかを検討することで、項目(2)について追究している。
さらに、初年度にすでに得られた成果の一部を記載した論文の投稿も済ませており、研究の進捗は計画予定以上に順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の研究計画調書において、平成28年度の研究実施項目として、生殖幹細胞増殖に関わる候補遺伝子群とステロイドホルモン生合成の関係の追究を掲げた。初年度で多数得られた候補遺伝子群について、機能阻害した際の生殖幹細胞の表現型が、昆虫の主要なステロイドホルモン (20-ヒドロキシエクジソン;20E) を摂食させることによりレスキューできるかどうかを検証する。さらに、20E摂食実験と合わせて当該の候補遺伝子が卵巣での20E生合成に関与するかどうか検討するために各ノックダウン個体における卵巣20Eレベルを測定する。20Eレベルの測定には市販のELISAキットによる確立した方法を用いる。一連の研究によって、候補遺伝子群が交尾・ステロイドホルモン・生殖幹細胞増殖をつなぐ役割を持つかどうかを検証する。
さらに、初年度のスクリーニングによって得られた(1)神経伝達物質と(2)自然免疫系が、交尾依存的な生殖幹細胞増殖をどのように制御するかを以下の実験によって明らかにする。(1)候補となる神経伝達物質のひとつNeuropeptide Fがどの組織で働いているのかを調べるために、組織特異的な機能阻害実験を行なう。表現型が得られれば、Neuropeptide Fの発現レベルが交尾によって変化するかどうかを調べる。(2)自然免疫経路の中でもどの遺伝子が生殖幹細胞増殖に必要かを調べるために、突然変異株系統およびRNAi系統を用いたスクリーニングを行なう。さらに、抗菌ペプチド遺伝子群の変異体や野生型系統への感染実験によって生殖幹細胞増殖が、自然免疫系の感染防御自体によって制御されるのか、もしくは感染防御とは独立した新規の経路によって制御されるのかを明らかにする。一連の実験によって、交尾刺激を生殖幹細胞増殖へとつなぐシグナル経路の解明を目指す。
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