2016 Fiscal Year Annual Research Report
交尾刺激による生殖幹細胞の増加を司るステロイドホルモンを介した神経機構の追究
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15J00652
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
天久 朝恒 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 生殖幹細胞 / 交尾 / 性ペプチド / ステロイドホルモン / 神経ペプチド / キイロショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
卵が安定的に供給されるためには、卵の大本となる生殖幹細胞(GSC)の分裂と維持の制御が鍵である。従来の研究では、GSCの性質を維持するために、周囲の細胞が様々なシグナルを出す微小(ミクロ)環境「ニッチ」の重要性が注目されてきた。一方多くの動物で、卵形成過程は個体をとりまくマクロな環境変化に応じて柔軟かつ適応的に調節される例が知られている。こうしたマクロな環境に対する卵形成の応答は、GSCというミクロなレベルへと何らかのメカニズムを通じて反映されるはずだが、マクロな環境変化がGSCに与える影響については不明な点が多く残されている。
申請者は、キイロショウジョウバエ成虫メスにおいて、交尾刺激がGSC増殖を引き起こすことを明らかにした。交尾依存的なGSC増殖は、オスの精液中のペプチド成分によってメスの神経で引き起こされる「性ペプチドシグナル経路」および卵巣での「ステロイドホルモン生合成」によって制御されることを証明した(Ameku and Niwa, PLoS Genet. 2016, Ameku et al., Fly 2017)。交尾依存的なGSC増殖を制御する神経内分泌メカニズムを明らかにしたことは、従来のミクロな視点からのGSC研究に新たにマクロな観点(交尾行動)をもたらす意義を持つ。
交尾依存的なGSC制御において、神経と卵巣をつなぐメカニズムを明らかにするために、284の膜受容体を標的としたin vivo RNAiスクリーニングを実施・完了させた。その結果、機能阻害により交尾後のGSC増殖が抑制される50遺伝子を得た。その中でも交尾後のGSC増殖を制御する有力な候補因子を同定し、詳細な機能解析を行った。一連の結果から、交尾刺激とGSC増殖をつなぐメカニズムに関して重要な知見を得た。(Ameku et al., 論文投稿準備中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究計画調書において、28年度までの研究実施項目として1. in vivo RNAi スクリーニングおよび2. 候補遺伝子群とのステロイドホルモンとの関係の追究、の2つを主な研究実施項目として掲げた。
項目1. に関しては、284膜受容体遺伝子を対象とした網羅的RNAiスクリーニングを完了させた。その結果、交尾後の生殖幹細胞(GSC)増殖を制御する多数の候補遺伝子を得た。その中にはこれまでにGSCとの関係が一切報告されていない多くの神経ペプチド受容体が含まれていた。その中でも特に、腸で発現する神経ペプチド(NPF)が交尾後のGSC増殖に関わる有力な候補であることが示唆された。
項目2. については、スクリーニングで得られた候補遺伝子NPFとステロイドホルモンとの関係を一通り追究し、NPFは卵巣でのステロイドホルモン生合成とは独立してGSCを制御することが示唆された。重要なことに、NPFは主要なニッチシグナルとして知られるBMPシグナル経路のレベルを調節することによって交尾後のGSC増殖を制御することが明らかとなった。さらに、腸で発現するNPFはオスから伝わる性ペプチドに応答し体液中に放出され、卵巣で発現するNPF受容体を介してGSCを制御することが示唆された。これらの成果は、交尾後のGSC増殖が、神経-腸-卵巣という異なる器官におけるシグナル経路により制御されていることを示した点で意義がある。さらに、初年度に得られた成果を記載した2報の論文が出版され、今年度に得られた結果についても論文投稿準備中である。このことから研究の進捗は期待以上に順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の研究計画調書において、平成29年度の研究実施項目として、「性ペプチド受容体発現神経細胞の同定と機能解析」を掲げた。これについては、すでに完了したin vivo RNAiスクリーニングによって得られた候補遺伝子を対象とし、発現解析を行う(in situ RNA ハイブリダイゼーション法および免疫組織化学染色法による)。特に、候補遺伝子の中でも多数得られた神経ペプチド遺伝子に的を絞って解析していく。性ペプチド受容体発現神経細胞で、候補遺伝子の発現が認められれば、特定の神経細胞でのみ神経活動を阻害した際に、交尾後の生殖幹細胞(GSC)増殖が抑えられるかどうかを検討する(神経活動の阻害には、カリウムチャネル Kir2.1、破傷風毒素、またはshibire 温度感受性変異分子などのすでに確立した系統を用いる)。
一方で、現在最も解析の進んでいる神経ペプチドNPFについては、機能解析の結果、神経ではなく腸での発現がGSC増殖に必要ということが示唆された。そのため、今後は性ペプチドシグナルと腸でのNPFの関係を追究していく予定である。具体的には、性ペプチドシグナル経路に応答して、腸で発現するNPFが体液中に放出されるかどうかを詳細に調べるために、ELISA法により体液中のNPFを定量する。このアッセイでは、性ペプチド受容体やNPFの機能阻害個体を用いて、交尾前後のNPF量を定量する。この結果が得られれば、これらの一連の成果を29年度中に論文投稿する。
また、初年度のRNAiスクリーニングの結果より、交尾後のGSC増殖を制御する因子として、自然免疫の経路に関わる遺伝子が多数得られている。29年度はこの結果についてもより詳細に解析し、特に感染や抗菌ペプチドとのGSC増殖との関係を追究し、論文としての投稿を目指す。
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