2015 Fiscal Year Annual Research Report
確率モデルを用いた情動発達の構成的理解:養育者の知覚バイアスが促す情動の構造化
Project/Area Number |
15J00671
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
堀井 隆斗 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 情動発達 / マルチモーダル / 認知発達ロボティクス / 心的状態推定 / 深層学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
人は内/外的な要因による自身の動的な身体変化を情動反応として捉えるとともに,様々な感覚様式を通じて情動を表出する.また人の情動カテゴリ(喜びや怒りなど)は発達的に増加していくことが知られているが,情動認識や表出に関わる能力が,如何にして獲得されるかは定かではない.本研究では構成的手法を用いることで,人の情動発達過程の理解を目指す.具体的には,1.深層学習を用いた情動発達過程のモデル化と計算機シミュレーション,2.実際の乳児の生理指標(心拍数や発汗)計測とベイズ統計モデルによる発達過程の可視化である.
1. 親子間の触覚相互作用が乳児の情動発達過程に与える影響を,確率的ニューラルネットワークを用いてモデル化し,計算機シミュレーションによって検証した.人の皮膚には,痛みや撫でられるような快/不快の感情に関連する刺激を検出する神経線維があることが知られている.この神経線維が人の情動発達や知覚に影響を与えることは知られていたが,具体的なメカニズムについては不明な点が多かった.提案モデルを用いた計算機実験により,この触覚神経からの情報が,乳児の情動カテゴリの構造化を促すことが示された.同時に,神経の欠損が情動の構造化を抑制し,コミュニケーションにおける自己情動や他者の情動認識を阻害することが示された.これは神経科学における知見と一致しており,我々の研究の成果が情動発達過程を明らかにすると共に,神経メカニズムの解明に向けて示唆を与えうることが期待される.
2. 今年度は成人の生理指標を解析,可視化した研究成果について発表した.これは乳児の生理指標計測,解析の予備的実験であり,実験設定と提案解析モデルの妥当性を検証した.実験では,提案モデルが特定の情動を喚起させる刺激を提示した際の生理指標から,情動状態の変化を抽出可能であることが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は確率的ニューラルネットワークを用いた情動発達過程のモデルと,生理指標解析と可視化のためのベイズ統計モデルを提案し,学会発表を行った.現在,モデル化研究の結果を論文として投稿中である.また提案モデルを人‐ロボット相互作用実験に応用した研究も進めており,計算機シミュレーションだけでなく実際の親子間相互作用を模した実験に取り掛かる予定である.生理指標計測実験においても予備実験を進めており,来年度から本実験に取りかかる予定である.以上より,当初の計画に従い,順調に研究が進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は基本的なモデルの構築と解析手法の提案を行った.来年度はそれらの結果を基に,より詳細な実験を行う.具体的には,情動発達過程のモデル化において,提案モデルを所属研究室で開発中の乳児型アンドロイドに実装し,実際の養育者との相互作用実験を行う.複数の条件にて実験を行い,提案モデルが獲得する内部構造を詳細に解析することによって,養育行動の違いが乳児の情動発達に与える影響について検討する.また,提案モデルを用いて乳児型アンドロイドの情動表出メカニズムを変更することで,養育行動の変化についても検証し,情動発達過程における相互作用の影響について調べる. ベイズ統計モデルを用いた情動発達過程の解析と可視化に関しては,これまでの予備実験の結果を踏まえ,実際の乳児での計測実験と解析を行う.またこれらの研究結果を相補的に組み合わせることで,工学的アプローチによって人の情動発達過程を明らかにし,発達科学や心理学の分野に対する示唆を与えることを目指す.
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Research Products
(5 results)