2015 Fiscal Year Annual Research Report
微小な超伝導体が示す異常な磁気応答に関する理論的研究
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15J00797
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鈴木 修 北海道大学, 工学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 超伝導現象論 / 異方的超伝導 / 非従来型超伝導 / 奇周波数クーパー対 / 常磁性マイスナー効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、奇周波数クーパー対と呼ばれる新奇粒子の磁気応答をしらべる。超伝導現象は、電子がクーパー対を形成することによって引き起こされる。その結果、超伝導体は電気抵抗の消失、完全反磁性(マイスナー効果)といった特異な電磁気学的性質を示す。クーパー対を構成する電子はフェルミ粒子であるため、クーパー対の状態関数は2電子の入れ替えに対して反対称になる。また、それに伴いクーパー対には「対称性」で分類される内部自由度が存在する。これまでの研究では「スピン」と「軌道」の自由度のみに着目し、クーパー対は、スピン1重項偶パリティかスピン3重項奇パリティに大別されてきた。これらの分類はペアを組む2電子は同一時刻の電子同士であるという仮定に基づいている。しかし、実際の電子にはもうひとつ「時間」の自由度がある。2電子の相対時間を考慮すると、クーパー対は「周波数」の自由度を持ち、偶周波数クーパー対か奇周波数クーパー対に分類される。本研究では奇周波数クーパー対、特にその異常な電磁気学的性質に着目する。 奇周波数クーパー対は非常に新しい概念であるため、いまだに不明な点が多い。単に奇周波数クーパー対といっても、その種類は様々であり、各々の性質は大きく異なる。そのため本年度はまず、奇周波数クーパー対の性質について網羅的に調べた。実際申請者は、同じ異方的超伝導体でも、母体の超伝導体の対称性がd波の場合と、p波の場合で、その表面に現れる奇周波数クーパー対の対称性が異なる事を明らかにした。奇周波数クーパー対の対称性の違いは、超伝導体試料表面の乱れに対する強さの違いとして現れる。すでに明らかにした、微小超伝導体の常磁性応答と、対称性の異なる超伝導体で表面に現れる奇周波数クーパー対の対称性が異なる性質を利用すれば、母体の超伝導体の対称性を決定する実験が提案できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究初年度における計画では、奇周波数クーパー対の性質について網羅的に調べる予定であった。具体的には、母体の超伝導を引き起こす偶周波数クーパー対の軌道の対称性と、その表面に現れる奇周波数クーパー対の軌道の対称性の関係を明らかにする事が初年度の目標であった。 その予定通りに申請者は、異方的超電導体の軌道の対称性の違いが、どのようにして現象に反映されるかを調べた。その結果申請者は今年度、母体の超伝導体の対称性がスピン一重項d波の場合と、スピン三重項p波の場合で、その表面に現れる奇周波数クーパー対の対称性が異なる事を明らかにした。さらに、その奇周波数クーパー対の軌道の対称性の違いは、超伝導体試料表面の乱れに対する強さの違いとして現れる。すなわち、表面が乱れた異方的超伝導体は、その対称性に依存して常磁性応答の強度が変わるという性質を示す。微小超伝導体の常磁性応答と、対称性の異なる超伝導体で表面に現れる奇周波数クーパー対の対称性が異なる性質を利用すれば、母体の超伝導体の対称性を決定する実験が提案できる事を、申請者は明らかにした。この研究内容は、当初の研究計画とほぼ一致しているため、本研究は順調に進捗していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
常磁性マイスナー効果が観測されるのは微小な異方的超伝導体のみではない。1991年Visaniらは従来型の超伝導体の細線を常伝導体である金の薄膜で覆った超伝導接合系の磁気応答を調べた。その結果、超伝導細線は異常な常磁性応答を示すことを明らかにした。微小な異方的超伝導体での常磁性マイスナー効果は解明できた一方で、Visaniらが行った接合系の実験での常磁性マイスナー効果の発現機構は明らかにされていない。そこで今年度は、従来型超伝導体の細線を常伝導体で覆った接合系での常磁性マイスナー効果の発現機構を明らかにする。 申請者はこれまで、異方的超伝導体の磁気応答を準古典アイレンベルガー方程式を用いて解析してきた。それに対して、金属との接合部を含む超伝導は、通常、準古典ウサデル方程式を用いて記述される。ところが、この手法は有限系に適用させるのは容易ではなく、前例もない。しかし申請者は、リカッチ分解法という手法を用いることで準古典ウサデル方程式が有限系に適用できると考えている。事実、これまでの研究で申請者は、金属接合を含まない異方的超伝導を記述する準古典アイレンベルガー方程式を同様の手法を用いて数値的に解いている。さらに、ウサデル方程式がアイレンベルガー方程式から導出されることを考えると、有限系への適用は、十分実現可能であると考えられる。 超伝導接合系がウサデル方程式で記述できると、金属部に現れるクーパー対の対称性を解析することが出来る。
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