2016 Fiscal Year Annual Research Report
琵琶湖深水層で優占する細菌系統CL500-11の生態解明
Project/Area Number |
15J00971
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡嵜 友輔 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 微生物生態学 / 水域生態学 / 陸水学 / 琵琶湖 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き大水深淡水湖の深水層に生息する細菌系統の知見の整理(1)を進めるとともに、新たに採集した琵琶湖サンプルを用いてメタゲノム解析(2)およびビローム解析(3)を行った。 上記(1)に関しては、CL500-11, CL500-3, CL500-15, CL500-37, Nitrosoarchaeum等の深水層特異的な細菌系統をFISH法を用いて顕微鏡下で特異的に染色・定量することに成功し、日本全国の大水深湖で採集したサンプルを用いて、その量的な重要性を明らかにした。さらに、シーケンスした16S rRNA遺伝子領域の変異を1塩基レベルの解像度で検出し、系統内の隠れた多様性を明らかにする手法(oligotyping)を用いて、湖ごと、深度ごとの比較を行い、既知の淡水産の細菌系統(acI系統やLimnohabitans等)においても、深水層に特異的な亜集団が存在することを明らかにした。 上記(2)に関しては、琵琶湖沖定点で季節的に採集したサンプルより細菌DNAを抽出し、ショットガンシーケンス・アッセンブルによる優占系統のゲノム構築を試みた。これにより、CL500-11, Nitrosoarchaeumをはじめとする深水層特異的な細菌のゲノムを9割以上の復元率・純度で構築することに成功した。 上記(3)に関しては、(2)のサンプリングの副産物として得られるウイルス画分(<0.2μm)の湖水を利用し、濃縮・精製したウイルス粒子よりDNAを抽出し、ショットガンシーケンス・アッセンブルによるウイルスゲノムの構築を試みた。これにより、100を超える完全長のウイルスゲノム、5000を超えるウイルスゲノム断片(>5kbp)が得られ、琵琶湖深水層で優占する重要な細菌系統であるCL500-11やNitrosoarchaeumに感染するとみられるウイルスも複数見つかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度の成果を取りまとめ、微生物生態学の国際学術誌Environmental Microbiology Reportsに論文を掲載した。これは「琵琶湖細菌図鑑」ともいえる、琵琶湖に生息する細菌系統を季節・深度横断的に網羅した貴重な成果である。 今年度は計画通り、対象を全国の湖に拡張し、Fluorescent in situ hybridization (FISH)、Oligotyping等の手法も取り入れながらより詳細で網羅的な解析を行い、取りまとめた結果を国内外の学会で発表し、論文も投稿済みである。さらに上記研究と同時進行で、琵琶湖でのメタゲノム解析を進め、すでに主要系統のゲノムの構築に成功している。当初の研究計画にあった主要系統の培養には未だ成功していないが、本手法により、培養を介さず琵琶湖に生息する細菌の遺伝子情報を網羅的に収集可能である。また、上記メタゲノム解析で得られたサンプルの一部を利用してウイルスの生態学にも着手し、琵琶湖に生息する主要なウイルス系統のゲノム構築にも成功している。以上の成果より、今年度の研究は当初の計画以上に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
投稿中の大水深淡水湖に生息する細菌系統を整理した論文の査読対応を進め、国際学術誌に掲載する。メタゲノム解析に関しては、構築したそれぞれのゲノムにコードされている遺伝子情報から、各系統の生理・生態的な機能の評価を進め、成果を取りまとめて論文を執筆する。ビローム解析に関しては、サンプル数を増やし解析の解像度を高めるとともに、主要なウイルスの現存量の変動や保有遺伝子の分析を行い、その生態学的な重要性の解明を進め、成果を取りまとめて論文を執筆する。その上で、これまでの研究成果を総括し、博士論文を作成する。 さらに次の研究として、メタトランスクリプトーム解析およびロングリードシーケンサーを用いた解析を計画しており、次年度以降の実験開始を目標にその予備実験を進める。
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Research Products
(4 results)