2015 Fiscal Year Annual Research Report
セリウム近藤半導体の異方的なギャップ構造と特異な磁気秩序の相間
Project/Area Number |
15J01007
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
川端 丈 広島大学, 先端物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | f電子系 / 希土類化合物 / トンネル分光 / 擬ギャップ / 重い電子系 / 近藤半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
c-f混成ギャップを持つCeOs2Al10は, TN = 28.5 Kというセリウム化合物としては極めて高い温度で反強磁性転移する。この高い転移温度と混成ギャップとの関係を明らかにするために, 本年度はこの系と正孔・電子ドープした系に対して下記の実験を行った。 準粒子状態密度の擬ギャップ構造を反映するトンネルスペクトルを, 破断接合法により測定した。母物質では, 降温とともにc-f混成ギャップV1とV2及びTN以下でギャップVAFが発達した。5d正孔ドープによってTNが低下すると, V1及びVAFは減少し, 転移が消失すると同時に全てのギャップは消失した。これらの結果は, CeOs2Al10の反強磁性秩序とc-f混成ギャップV1が強く相関していること示している。 また, 準粒子状態密度のエネルギー微分に敏感な熱電能を測定した。CeOs2Al10の熱電能は, b軸方向のみで100 Kに大きな極大を示した後, 擬ギャップ形成により減少し, 38 K以下で急減する。この急減は, TNより高温でフェルミ面の一部が消失した結果である。また, この挙動は5d正孔・電子ドープによって抑制されることから, 転移に先立ってフェルミ面の一部が消失していることを示している。 更に, CeをLaで置換にして4f正孔をドープした系のバルク物性を測定し5d正孔ドープとの違いを比較した。5d正孔ドープでは5%という僅かな置換量でTNが消失するのに対し, 4f正孔ドープではTNはずっと緩やかに抑制され, 35%付近で消失する。また, 混成ギャップV1もTNに相関して緩やかに減少した。これらの結果はCeOs2Al10の特異な反強磁性秩序は伝導電子密度の変化には敏感であるが, 4f電子密度の希釈には鈍感であることを示している。両者における電子状態の変化の違いを探るためのトンネル分光実験を現在進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は, 近藤半導体CeOs2Al10が, なぜ28.5 Kという極めて高温で反強磁性秩序するのかを明らかにすることである。これまでに得られた「5d正孔・電子ドープによって擬ギャップの大きさとTNが相関して抑制された」という事実に基づいて, 破断接合法トンネル分光と熱電能の測定を計画し, 特異な反強磁性秩序と混成ギャップの関係を探った。 初めに, 母物質であるCeOs2Al10のトンネルスペクトルを測定し, 二つのcf混成ギャップV1とV2及びTN以下でVAFが開くことを観測した。この結果をまとめた論文は,Physical Review Bに掲載された。5d正孔ドープ系のトンネル分光では, V1が消失するとともにTNが消えたことから, CeOs2Al10の反強磁性秩序にV1が必須であることが確かになった。 擬ギャップ形成に伴う熱電能の極小は, 5d正孔・電子ドープによって抑制された。また, 母物質の熱電能の温度変化から, TNより高温でフェルミ面の一部が消失することを支持する結果が得られた。この結果をまとめた論文は,Journal of the Physical Society of Japanに掲載された。 更に, Ceサイトに4f正孔をドープしても, 特異な反強磁性秩序と擬ギャップに相関があるのか確かめるために, Ce1-zLazOs2Al10の磁性と伝導を測定した。その結果から, 4f正孔ドープでも擬ギャップの大きさが減少するとTNが低下することを明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの破断接合法トンネル分光の結果から, CeOs2Al10ではc-f混成ギャップの消失とともにTNが消失することが明らかになった。しかし, ギャップが開いた状態がなぜ磁気的相互作用を強めているのかは未だ判っていない。この問題を解明するために, CeOs2Al10の5d電子ドープ系と4f正孔ドープ系及びCeRu2Al10のトンネルスペクトルを測定する。 5d電子をドープすると, CeOs2Al10の4f電子状態の局在化が進むと同時にTNが低下する。Ir置換量(電子ドープ)が8%から15%に増加すると, TNは21 Kから7 Kに下がり, 電気抵抗率のギャップ形成に伴う熱活性型の挙動が消失する。一方, La置換により4f正孔をドープしてもc-f混成強度は変化しない。これは5d正孔ドープでc-f混成が増強されることと対照的である。また, 4f正孔ドープでは5d正孔ドープに比べてTNが緩やかに低下する。これらの系の電子・正孔ドープに伴う準粒子状態密度の変貌を調べることで, c-f 混成ギャップとTNとの相関関係を確立したい。 また, 5d/4f正孔を僅か5%ドープした電気抵抗率に注目すると, 20 K以下で前者の電気抵抗率は金属的に減少するのに対して, 後者では増加し続ける。更に, CeOs2Al10よりも4f電子状態が局在的なCeRu2Al10(TN = 27 K)の電気抵抗率は, 10 K以下で一定になることが知られている。これらの系のトンネルスペクトルを測定することで, それぞれの準粒子状態密度の温度変化を比較し, 電気抵抗率の増大の起因を明らかにする。 これらの成果を論文としてまとめ, 国際会議や日本物理学会で発表するとともに博士論文の準備を進める。
|
Research Products
(16 results)