2015 Fiscal Year Annual Research Report
「貨幣」と「信用」の起源への一般均衡理論的接近と哲学的・方法論的・歴史的検討
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15J01034
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
村上 裕美 大阪大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 貨幣的一般均衡理論 / 公理的特徴付け / von Neumann モデル / Satiated Economy / 経済学方法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
貨幣とその信用創造といった問題を取り扱うことが可能な、経済学理論構築の足掛かりを得ることが本研究の目的であり、一般均衡理論研究を主軸としながら、経済学理論における貨幣の取り扱いの意義と問題点を明らかにすべく、貨幣と信用の問題に関する方法論的検討を並行して行っている。本年度の主たる研究成果は、世代重複モデルに基づく理論研究により得られたものである。 主体および商品の数がともに発散する二重無限の構造を持つ世代重複モデルは、静学的経済分析に貨幣を導入する基本的な枠組みである。このモデルの最も大きな特徴は、「競争均衡が必ずしもPareto最適とならない」ことであり、均衡の最適性を回復する上で、貨幣が重要な役割を担うことが知られている。世代重複モデルにおける最適性やコアといった概念を整理しながら、レプリカコア収束の手法に基づいた貨幣的均衡への接近について、今日までの諸研究をまとめ、ゲーム論的な意義と解釈の説明を行った邦文論文「世代重複モデルにおける貨幣とコア概念」を、『三田学会雑誌』108巻3号コンファレンス特集に発表した。これは、経済を有限期を生きる主体の連鎖と捉えるとき、貨幣が安定的な均衡をもたらすものとして、永続する経済の中に位置づけられることを示したものである。 この結果を用い、世代重複モデルにおける貨幣的メッセージメカニズムの効率性および普遍性に基づいた公理的特徴付けの論文を執筆し、日本経済学会や数理経済学会等で報告を行った。これは、世代重複モデルを考えるとき、均衡を実現する市場メカニズムにおいて「価格と貨幣供給」が最も重要な役割を果たすことを明らかにしたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
世代重複モデルにおける最適性やコア概念に関する諸研究を整理しながら、貨幣的均衡へのレプリカ有限コア収束定理を示し、近接分野の知見を踏まえつつその解釈を行った邦文論文を、『三田学会雑誌』108巻3号に発表した。 この研究を引き継ぎ、Sonnenschein(1974)と同様の手法に則って、世代重複モデルにおける価格―貨幣メカニズムの情報効率性を公理的に特徴付ける論文を執筆し、その成果を日本経済学会や数理経済学会で報告した。 さらに、以上の結果から派生して、世代重複モデルにおける貨幣的均衡を、“Individual Rationality”,“Weak Pareto Optimality”,“Local Independence”といった社会選択理論の概念に基づいて公理的特徴を行い、近接分野との連絡を示した。本論文についても、日本経済学会やセミナーでの報告を行っている。 また、主体間の資産移転を実現するという意味で、貨幣的均衡と同様の構図を持つ、選好飽和点の存在する経済における Dividend Equilibriumのコア収束定理ならびにその公理的特徴付けの問題にも取り組んでおり、現在当該論文を査読専門誌へ投稿中である。 哲学、方法論、歴史方向の検討としては、毎月の方法論研究会(数理経済学会方法論部会)における検討ならびにホワイトヘッド・プロセス学会主催の研究会への参加を中心として、研究計画の実施上十分な活動を行うことができたと考えている。とりわけ、法哲学、法社会学あるいは科学哲学といった異分野の研究者とのネットワークが大きく拡大したことは大きな成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
上で述べた研究結果を受け、可算無限次元化された Kemeny et al.タイプの von Neumann モデルに外部貨幣を導入し、投入産出モデルにおける定常状態として、貨幣的均衡を記述することが、今年度の主たる課題である。 世代重複モデルにおける貨幣的均衡の問題が当初の想定よりもはるかに多くの検討事項を含んでいることが明らかとなったため、それらの検討に注力する必要があり、前年度の論文執筆作業ならびに学会報告は世代重複モデルのフレームワークで行ったが、von Neumann モデルについても、今年度に向けて並行して検討を進めている。本モデルは、名目利子率と実質利子率の区別や中間資本財の状態変化による資本蓄積状況の記述を可能とし、加えて成長率が内生変数であるという点で内生的成長モデルと同様の構造を持つものである。このモデルに貨幣を導入することで、実質利子率と名目利子率の相違等を切り口とした金融政策の検討を行える形にモデルを拡張する。 また、前年度の世代重複モデルにおける研究成果を元に、ターンパイク定理を用いて多部門成長モデルとしての von Neumann モデルと、今日のマクロ経済動学との関係を明らかにする。さらに、世代重複モデルについて得た研究結果と von Neumann モデルで得た結果を合わせることで、流動性選好を基礎として一時的一般均衡モデルの設定を再構築し、ケインズ的な貨幣問題を無限期を通した世代重複モデルで取り扱うことを目指す。 最後に、方法論的検討についても、今年度新たに構築できた異分野の研究者とのネットワークを発展させる形で、継続して研究を行っていきたい。
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Research Products
(8 results)