2015 Fiscal Year Annual Research Report
糸状菌界面活性蛋白質の細胞表層・固体表面での生化学的機能解析から生物模倣応用へ
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15J01183
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 拓未 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | ハイドロフォビン / 自己組織化 / 水晶発振子マイクロバランス(QCM)法 / 原子間力顕微鏡(AFM) / 結晶化 / クチナーゼ / タンパク間相互作用 / Aspergillus属糸状菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、麹菌が生産するハイドロフォビンRolAの特徴的性質(固体表面の湿潤性逆転、マウスの免疫機能を回避、酵素クチナーゼをリクルート)を、将来的に医学的・産業技術開発へ応用することを目指している。そのためには、固体表面とRolAの相互作用機構の解明、RolAの高次構造決定を行い、固体表面へのRolA吸着を制御することが大きな課題である。今年度はその課題解決の前段階として下記の研究を実施した。 1.固体表面や麹菌細胞壁へのRolA吸着機構解析:均一に化学改質した固体基板を用い、異なるpH条件下でのRolAの吸着様式をQCM法で解析し、RolA吸着後の基板表面をAFMで観察した。その結果、固体表面の荷電性の有無がRolAの初期吸着に、RolAの分子表面電位がRolA吸着過程全体と自己組織化構造形成に関与していることを見出した。本実験には主に後輩への指導・アドバイス面で関わった。また、固体表面上に吸着したRolAに対し、麹菌細胞壁成分のグルカンをオリゴ糖化して反応させたが、相互作用は見らなかった。 2.RolAの結晶化スクリーニング:結晶化には高濃度(5mg/ml以上)のRolA溶液が必要であるため、RolAが凝集体を生じない濃度範囲を、QCM法の際に反応溶液のチンダル現象を観察することで概算した。中性・塩基性条件において野生型RolAは最大約0.8mg/ml、RolAの自己組織化・凝集に関わるアミノ酸残基2か所を変異させた変異型RolAでは最大約1.6mg/mlまでしか濃度を上げることができず、それ以上の濃度では凝集体が生じた。 3.ハイドロフォビン-クチナーゼ間の相互作用機構解析:モデル糸状菌であるAspergillus nidulansのハイドロフォビンRodAとクチナーゼCut1、Cut2を単離・精製し、固体基質の分解実験、QCM法による相互作用解析を行った。固体表面上に吸着したRodAはCut1、Cut2とそれぞれ相互作用し、クチナーゼによる基質分解を促進した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.固体基板の均一な化学改質法と、QCM法による吸着機構解析、AFMによる観察を組み合わせて、様々な化学的性質を持った固体表面に対するRolAの吸着機構と、その際に固体表面上に形成される構造を解析した。その結果、RolAの初期吸着には固体表面の荷電性の有無とRolAの分子表面電位の双方が関与し、その後のRolA吸着と自己組織化構造形成にはRolAの分子表面電位が重要であることを見出した。これらの成果を現在投稿論文原稿としてまとめており、Langmuirへの投稿を予定している。また、学会発表も行った。 2. RolAが単分子で存在可能な濃度を検討したところ、結晶化が可能となる濃度への濃縮は困難であることが判明した。そこで、結晶化よりも解析可能条件の制約が少ない高次構造解析手法である核磁気共鳴分光法を検討する。安定同位体を導入した同位体置換型RolAの生産条件を確立する必要があるが、RolA生産後の高純度精製系は既に確立されていることから、NMRによる高次構造解析は決して不可能ではないと考えている。これまで不明であったRolAの高次構造情報を得ることで、より効率的な材料工学的、タンパク質工学的アプローチを可能とすることが期待できる。 3. A. nidulansにおいても、RolAのオルソログであるハイドロフォビンRodAが、CutL1のオルソログであるCut1、Cut2をリクルートすることが判明した。CutL1、Cut1、Cut2は基質特異性がそれぞれ異なっていることと、QCM法によってRolA-CutL1、RodA-Cut1、RodA-Cut2の組み合わせでそれぞれ相互作用機構が異なる可能性が推察されたことから、ハイドロフォビンによってクチナーゼ以外の酵素をリクルートできる可能性が期待される。これらの成果は、現在投稿論文原稿としてまとめており、Applied Microbiology and Biotechnologyへの投稿を予定している。また、学会発表も順調に行ってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
固体表面へのRolAの吸着メカニズム・自己組織化構造の解明と、機能性粒子の開発に向け、以下の3点についての研究を実施する。 1.化学改質、糖鎖修飾した固体表面へのRolA吸着機構解析:前年度は固体表面の荷電性の有無とRolAの表面電位がRolA吸着に与える影響について着目したが、今年度は固体表面の疎水度や官能基の違いが与える影響についてさらに解析する。非荷電性かつ親水的に化学改質した固体表面や、麹菌細胞壁多糖を固定化した固体表面を作製し、それらの表面に対するRolAの吸着機構をQCM法とAFMを組み合わせて解析する。これにより、RolA吸着制御に関する手法の確立を目指す。 2. 核磁気共鳴分光法による高次構造解析系の構築:結晶化に代わる高次構造解析手法として核磁気共鳴分光法を試みる。まず、重水素、炭素13、窒素15各同位体を導入したRolAの生産方法を検討・確立する。また、この同位体置換型RolAを用い、本学農学研究科の榎本准教授のご指導の下、核磁気共鳴分光法による高次構造情報の条件を検討する。 3.ハイドロフォビン-クチナーゼ間の相互作用解析:ハイドロフォビンRolA、RodAのアミノ酸配列情報を基にキメラ型RolA、キメラ型RodAを作製し、QCM法によってCutL1等のクチナーゼとの相互作用解析を行う。これにより、ハイドロフォビンとクチナーゼ間の相互作用機構を更に詳細に解明するとともに、クチナーゼ以外の酵素をハイドロフォビンによってリクルートする技術開発への知見を得る。
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Research Products
(5 results)