2015 Fiscal Year Annual Research Report
ナノDNAワクチンを基盤とした樹状細胞エンジニアリングと難治性癌治療への展開
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15J01221
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
三浦 尚也 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | DNAワクチン / 樹状細胞ワクチン / DNAベクター / KALAペプチド / ヒト単球由来樹状細胞 / リポソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
DNAワクチンは抗原遺伝子をDNAにより導入する事で、獲得免疫を誘起する技術である。私はこれまでに、抗原提示細胞である樹状細胞に対し、遺伝子導入・免疫活性化を可能とするDNA封入ナノ粒子の開発に成功した。平成27年度においては、より強力な活性を有するナノ粒子設計の改変、及びヒトへの臨床応用可能性を探るため、ヒト単球由来樹状細胞を用いた検討をおこなった。 以前より樹状細胞への遺伝子導入に用いていた、KALAペプチド修飾多機能性エンベロープ型ナノ構造体(KALA-MEND)は、脂質二重層からなるリポソーム内にpDNAを内封し、リポソーム表面にαヘリックス構造を有するKALAペプチドを修飾していた。本粒子はDNAの封入のため、プロタミンと呼ばれるポリカチオンを用いていたが、ポリカチオンによる転写・翻訳機構の阻害や毒性の影響を減らすため、KALA修飾リポソームとプラスミドDNAを混合して得られるKALAリポプレックスを設計し、調製に成功した。本粒子は従来のKALA-MENDと比べ、高い遺伝子発現活性・免疫活性化効果を有している事が明らかとなった。更に、段階的に長さを短くしたKALAペプチドを用いた検討により、KALAペプチドの機能発揮には脂質膜上でのαヘリックス構造が鍵となる事が明らかとなった。本成果により樹状細胞に対して、より効率的に遺伝子導入・免疫活性化を可能とするDNAベクターの基礎と、その活性に重要なペプチドの構造を明らかとした。 以上の結果はマウス樹状細胞を用いた検討であり、ヒトへの臨床応用に向けてはヒトの樹状細胞を用いて活性を評価する必要がある。そこで健常人ボランティアより採取した単球を用いて、ヒト単球由来樹状細胞を誘導し、KALA-MENDの活性を評価した。その結果、マウス樹状細胞と同様に、遺伝子発現活性・サイトカイン産生が認められた。本成果により、KALA修飾ナノ粒子のヒトへの臨床応用可能性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度においては本研究の基盤となる、樹状細胞への遺伝子導入ベクターの改良が製剤設計の変更により達成された。また本ベクターの重要な構成要素であるKALAペプチドに関して、機能発揮に重要な条件を明らかにしたことからも、本研究が順調に進展していると考えられる。また、当初は2年目以降に行う予定であった、ヒト単球由来樹状細胞における活性評価も前倒しでおこない、臨床応用へ繋がるような結果が得られたことは、計画以上の進展であると考えられる。一方で、研究実施計画に記載したミニサークルDNAに関しては、活性上昇が困難であることが明らかになったため、これを補填する戦略(今後の研究の推進方策に記載)を既に立案しており、また良好な結果が得られつつあることから、本研究の遂行に関して問題は無いと考えている。以上を総括して、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては以下の2点を想定している。 1. 抗原遺伝子の導入能を更に高めるため、ミニサークルDNAの応用を試みていたが、今後においてはより強力な抗原遺伝子の導入を実現するため、メッセンジャーRNA(mRNA)の応用を試みる。mRNAによる遺伝子導入は、DNAに比べ、核膜の突破を必要としない点等から効率が高いことが知られている。加えて、ゲノムへの挿入による変異原性を持たないため、安全性の観点からも有用である。現在までに、マウス樹状細胞に対してKALAリポプレックスを用いてレポーター遺伝子であるルシフェラーゼ遺伝子のmRNAによる導入に成功している。今後はモデル抗原であるOVAを用いた樹状細胞ワクチンとしての評価を進めていく。 2. 腫瘍内微小環境はがん細胞に対する免疫応答を負に制御し、免疫機構による腫瘍の排除を困難にしている事が知られている。よってワクチン技術による抗腫瘍免疫の活性化に加えて、腫瘍内免疫抑制環境を解除することも効果的な抗腫瘍ワクチンの実現には必須である。当初は樹状細胞を標的として免疫抑制の解除を試みる計画であったが、より効果的な戦略として、腫瘍全体を標的に設定し、腫瘍内の慢性炎症のリセットを試みる。NF-κBやSTAT3等の転写因子の活性化によって引き起こされる慢性炎症は、直接的な腫瘍成長促進や、血管新生の亢進によって間接的に腫瘍成長を促進することが明らかになっている。更に抗腫瘍免疫に対する影響も知られており、慢性炎症の解消はワクチン技術との併用が有用であることが考えられる。今後はステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンを用いて慢性炎症の解消を試みる。また上述のmRNAを用いた樹状細胞ワクチンとの組み合わせも検討していく。
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Research Products
(2 results)