2015 Fiscal Year Annual Research Report
金ナノ構造体の強い局所光学活性によるキラル光化学反応場の開拓
Project/Area Number |
15J01261
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
橋谷田 俊 総合研究大学院大学, 物理科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | ナノ材料 / キラリティ / 走査プローブ顕微鏡 / 近接場 / 偏光特性 / プラズモン / 金ナノ構造 / 不斉光化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,金ナノ構造体が示す光学活性の起源を解明するとともに,ナノ構造体を光化学反応場として光のキラリティを分子系に転写し,最終的に分子構造にキラリティを誘起できることを示すことである。本年度は大きく分けて2つの研究を実施した。 1. 近接場光学顕微鏡に偏光計測光学系を組み込むことにより,円二色性と旋光性を同時計測できる近接場偏光解析(NF-P)法を新たに開発し,回折限界を大きく超えた約100 nmの空間分解能での光学活性計測に成功した。NF-P法を用いて,金ナノ長方形に対してその長軸方向に直線偏光した近接場光を照射し,縦モードプラズモンを局所励起した時に発現する光学活性の観測を試みた。直線偏光した近接場光の発生の際,プローブの開口形状の歪み等によってしばしば偏光状態が乱されるため,プローブへの光の入射前に偏光状態を予め直線偏光子と位相板により補償した。結果として楕円率-0.06という高純度の直線偏光をプローブ先端で発生させ,それにより長方形のプラズモン共鳴励起に伴い発現する(典型的なキラル分子よりも約100倍)強い局所光学活性を実測することに成功した。理論計算結果との比較から,光学活性の発現は入射光とプラズモン場の干渉に起因すると考えられる。 2. キラリティを有しない金ナノ長方形と直線偏光を用いて,長方形のプラズモン場のキラル光学特性を制御し,プラズモン場とキラル超分子(ウイルス)の強い左右非対称な相互作用を誘起することを試みた。理論計算により,長方形と直線偏光の傾きが右向きと左向きの場合で互いに逆方向のキラリティを有するプラズモン場が発生することを確認した。キラル超分子の検出を試みたところ,従来のキラル分光法よりも3桁程度高いナノグラムレベルの感度でキラリティを検出することに成功した。これは,プラズモン場のキラル光化学反応場への展開のための基礎原理と位置づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,金ナノ構造体の局所光学活性とキラルなプラズモン場の特性・発現メカニズムを解明すること,キラルなプラズモン場とキラル分子の強い相互作用を誘起すること等を目標としており,そのための実験装置は整備され,実験研究も進んでいる。金ナノ構造体の局所的な円二色性と旋光性の同時計測が可能なNF-P法の開発により,キラリティのないナノ構造体における局所光学活性を実験的に議論できるようになった。さらに,キラリティのないナノ構造体と光を用いたキラル(超)分子の高感度検出の実証により,プラズモン場のキラル光学特性が制御可能なこと,およびプラズモン場と分子が強いキラルな相互作用をすることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,対象とする系を金ナノ構造・分子複合体へと拡大し,金ナノ長方形のキラルなプラズモン場による蛍光分子の円偏光発光誘起と光重合高分子(SU-8)のキラル2光子重合反応誘起を試みる。NF-P法を用いて,金ナノ長方形単体の局所光学活性と金ナノ長方形・アキラル蛍光分子複合体の局所円偏光発光の空間分布を測定,比較することで,プラズモン場のキラリティがアキラル分子系の光学特性に転写し得ることを検証する。また,金ナノ長方形・SU-8複合体に円偏光状態の超短光パルスレーザーを照射することで,レーザー光のキラリティを反映した空間選択的なSU-8の2光子重合を誘起し,さらに重合したSU-8の光学活性をNF-P法により測定することで,光のキラリティが分子構造に転写される可能性を実験的に検討する。
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