2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J01381
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鹿野 祐介 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 人の同一性 / 最小限の自己 / 現象的自己 / エゴ・トンネル |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、人の同一性における、人の通時的な持続に関する形而上学的考察ならびにデイントン、メッツィンガーによる自己概念の検討を中心に研究を行った。この成果の一部をもとに、学会発表を行った。 この学会発表では、人の同一性にまつわる形而上学的問題と倫理学的問題を区別し、人が時間を通じて持続するという事実を整合的に説明しうるモデルの検討を行った。従来、人の同一性は心的状態の因果的つながりをモデルとして説明されてきたが、この発表では、人の思考が、時間を隔てた自分自身に向かうとする志向性に着目するモデルに着目し、その立場の功罪を明らかにした。これをもとに、時間や空間に関する形而上学的議論を調査するため、現代英米圏の参考文献の購入に補助金を充当した。 デイントン、メッツィンガーによる自己概念の検討においては、それぞれの著書『現象的自己』(The Phenomenal Self)、『エゴ・トンネル』(The Ego Tunnel) の比較調査を行った。「主体は意識の能力以上のものではない」とするデイントンのC理論、および、「脳内で活性化される自己モデル」がもたらす経験は「バーチャル・リアリティー」であるとするメッツィンガーの仮想モデル理論の両者が提示する自己概念はともに、人の同一性という主題における「人としての自己」(person) を構成しうる最小限の意識の在り方を提示している。この分析により、人の同一性において問題とされる「自己」が、最小限の意識としての自己だけでは説明できないと考えるに至り、以降、より曖昧で複雑な概念である、人(person)を中心と据える調査を進めている。この調査ならびに人の意識に関わる古典的議論の参照のため、17世紀から20世紀に至るまでの英国圏の参考文献を多数購入している。また、デイントンの講演および、関係する研究者の講演への出張費用に補助金を充当した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
意識にもとづく現代の自己理論を調査することにより、「自然主義的な意識説の構築」という課題における、人についての形而上学的な考察の方法論、および、脳神経科学的な知見にもとづき自己を考察する下準備が整った。 また、諸学会ならびに諸講演への調査出張を行ったことで、言語哲学ならびに心の哲学上の議論を追うことができ、人(person)の日常的な在り方を分析する意義への洞察も得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方策は以下のとおりである。 1)考察対象を、意識から構成されたものとしての主体にとどまらず、日常的な意味で語りうる人(person)へと拡大し、責任を帰属することの可能な主体がどのような枠組み(あるいは存在論)のうちに位置づけられるかを検討する。 2)意識的な自己から日常的な意味での人へと考察対象を拡大することに伴い、人の通時的同一性に関する従来の議論における、責任帰属の問題をいかに対処できるかを考察する。 3)人ないし自己を一種の創作的虚構(フィクション)と見做す「物語説」、あるいは、そのような主体は混乱による産物であるとする「無主体説」の調査研究を行い、研究課題である「意識説」の立場の優位性を示すことを試みる。
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Research Products
(1 results)