2015 Fiscal Year Annual Research Report
強相関・多自由度系超伝導体の微視的電子状態に基づいた理論研究
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15J01476
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
野本 拓也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 重い電子系 / 異方的超伝導 / 第一原理計算 / 軌道自由度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、重い電子系に代表される強相関・多自由度系超伝導体を微視的な立場から理解することを目的としている。本年度は当初の年次計画にあるように第一原理計算に基づいてUPt3化合物の超伝導対称性・発現機構の解析を行った。 UPt3はスピン3重項超伝導が示唆される重い電子系化合物であり、磁場-温度相図において多重超伝導相図を示す非常に珍しい物質である。本研究では第一原理計算に基づく微視的な電子状態を用いて、電子相関効果を2次摂動の範囲で取り扱い、UPt3の磁気・多極子ゆらぎの構造や超伝導対称性の計算を行った。その結果、中性子散乱実験で観測されている構造とコンシステントな磁気揺らぎが得られ、その揺らぎを用いて最も実現可能性の高い超伝導対称性を計算した結果、多くの実験を比較的よく説明できるE2u表現の超伝導ギャップを得た。この超伝導ギャップはE2u表現という対称性に属しながら、従来考えられていなかった特殊なギャップ構造をしており、バンドごとにノードの入り方が異なるという著しい特徴を持っている。特に計算で得られた、小さなフェルミ面を持つバンドに入るノードの構造は、従来の非従来型超伝導体の研究において考慮されていなかった新しいタイプのギャップ構造である。この結果を受けて我々は合成角運動量j=5/2を用いた超伝導ギャップ関数の分類を行い、軌道自由度とスピン軌道相互作用を考慮することで、このような特殊なギャップ構造が現れ得ることを示した。このギャップ構造は回転磁場下における熱伝導度と比熱の両方の実験をコンシステントに説明でき、UPt3で実際に実現している超伝導ギャップの有力な候補になると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目標であった局所相関効果を取り入れた解析を行うには至らなかったが、第一原理計算に基づく解析でE2u表現に属する超伝導ギャップ関数が得られ、現象論で有力とされていた2次元・奇パリティの超伝導対称性を微視的な立場からサポートすることができた。また、合成角運動量を用いたギャップ関数の分類により示した軌道・バンド依存したノード構造は、熱伝導度・比熱の両方の実験結果をコンシステントに説明でき、当初の計画にない成果を生んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、局所相関効果がUPt3や他の重い電子系超伝導体の対称性・発現機構に与える影響を調べる一方、本研究において一部行った多軌道・多自由度系超伝導体の分類も並行して進めていく予定である。特に、本研究で得たUPt3のギャップ構造にも現れている非共型空間群によって守られたノードの分類を行い、また実験との関連として、微視的な電子構造に基づく磁場中超伝導状態の計算も行っていく予定である。
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Research Products
(5 results)