2016 Fiscal Year Annual Research Report
原始惑星系円盤の進化・散逸過程から考える汎惑星形成理論
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15J01554
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小野 智弘 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 原始惑星系円盤 / 流体不安定性 / ロスビー波不安定性 / 巨大渦 / 理論天文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では惑星形成の現場である原始惑星系円盤を調べることで、統一的な惑星形成理論の構築を目指している。近年、ALMA望遠鏡などによって原始惑星系円盤の多様な物理構造の存在が明らかにされてきた。ある方位角方向に物が偏って存在する『三日月状構造』もその一つである。三日月状構造は円盤進化や惑星形成に緊密に関連することが期待され、その理解が強く求められている。 三日月状構造は円盤上に存在する巨大渦によって説明することができる。しかし、円盤上の巨大渦に関して形成機構やその性質・多様性は明らかにされてこなかった。報告者は渦形成機構としてロスビー波不安定性に着目している。ロスビー波不安定性は、円盤が動径方向に急激に変化する構造を持っている時に円盤内に渦を形成する流体不安定性である。平成27年度には線形安定性解析によってロスビー波不安定性が不安定となる必要条件を求めることに成功した。平成28年度は線形安定性解析の結果を踏まえ、数値流体計算によってロスビー波不安定性によって形成される渦の性質・多様性を明らかにした。 ロスビー波不安定性が渦形成を引き起こす円盤において広いパラメータ領域で数値計算を行い、形成される渦の性質を調べた。数値計算は最新の公開数値流体計算コードAthena++を使用した。円盤内の渦を特徴づける観測可能な物理量である『動径幅』・『軸比』・『面密度コントラスト』を定義し、それぞれの物理量が満たすべき条件に制限を与えた。また、渦を持つ円盤の軸対称成分が満たすべき条件も明らかにした。これらの結果は、ALMA 望遠鏡やすばる望遠鏡による将来観測に対して定量的な予測を与える。 以上の研究成果を1編の論文にまとめ、査読付き国際学術誌に投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究では、ロスビー波不安定性によって形成される渦の性質を調べる予定であった。当初の予定通り、前年度に調べたロスビー波不安定性の線形段階に関する理解を活用し、ロスビー波不安定性によって形成される渦の性質・多様性について数値流体計算で調べた。数値流体計算に関しては、最新の公開数値流体計算コードAthena++を使用した。渦を特徴づける観測的な3つの物理量が満たすべき条件に制限をつけることで、ALMA 望遠鏡やすばる望遠鏡による将来観測に対して定量的な予測を与えることに成功した。 公開数値流体計算コードを使用するに当たって、渦形成を高精度に追うことが不可欠であった。そこにおいて、Athena++コードに改変を加えることが不可欠であった。具体的には、毎時間ステップ後に各動径座標において方位角方向のフーリエ分解を行う機能を導入した。その導入に当たり当初の予定以上に時間を要した。しかし、コード開発者と緊密に議論を行ったことでその遅れは最小限に抑えられたと考えられる。 平成28年度に関して総合的に判断すると、多少の遅れはあったが当初の予定通りの成果が得られている。以上のことから、おおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、ロスビー波不安定性によって形成される渦について3つの研究(a、b、c)を遂行する。 研究(a)では、観測された三日月状構造を説明する巨大渦の形成可能性について調べる。観測から示唆される大局的な密度変化も新たに考慮し、数値流体計算で巨大渦の再現を試みる。また、大局的な密度構造が形成される渦に与える影響も調べる。 研究(b)においては、渦移動に焦点をあてる。円盤上に形成された渦は円盤と相互作用しながら中心星方向に移動していく。その移動速度は渦の性質によって変化し、渦の寿命に直接関連する。しかし、渦移動について我々が持つ知識は限定的であるため、その理解が求められている。本研究では、数値流体計算の結果をフーリエモードに分解し、各モードをの時間進化を解析する。これによって、渦移動過程の解明に至る予定である。 研究(c)においては、乱流粘性が渦の寿命に与える影響を調べる。先行研究において円盤の乱流粘性は渦形成に影響を与えない一方で、渦の破壊に寄与することが示唆されている。そのため、様々な渦の寿命に対して乱流粘性が与える影響を明らかにする。その際、Athena++に新たに粘性を計算する機能を導入する。 以上の研究によって、円盤中の巨大渦や三日月状構造に対する理解を深める。それによって得られる知見を、円盤進化や惑星形成の理解に繋げていく。
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Research Products
(9 results)