2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J01771
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川名 清晴 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 自然性問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度、私は研究課題について様々な視点から研究を進めた。全部で6つの論文を出し、その内4つが既に学術雑誌に掲載されている。以下では、その中でも重要な成果について述べる。 論文[1]では、これまでの研究で得られたColeman理論をより一般化した。その枠組みの中ではいくつかの自然性問題が1つの原理を用いてシンプルに解決できることを見た。様々な問題が1つの原理から解決出来るという結論は素粒子物理学において非常にインパクトがあり、自然の理解にとって本質的である。ただ、定式化の段階で自明でない仮定もしており、それをどう正当化するのかが今後の課題である。 論文[2]では、広いクラスのモデルに対しperturbativityから得られる制限について議論した。少なくとも標準模型においては全てのcouplingがプランクスケールまで摂動的であり、新たにモデルを作る際にもperturbativityをチェックすることは必須となっている。具体的には、標準模型に1つだけスカラー粒子を加えるモデルを考え、結果として粒子のチャージが比較的小さくても摂動論がプランクスケールまで使えないことを示した。より多くのスカラー粒子を加えても定性的な結論は変わらないため、我々の結論は標準模型を超えたモデル一般に対し強い制限を与える。同じ方向性として、最近のLHCの実験結果を説明する現象論的モデルを[3]で考察した。 論文[4]では、宇宙のバリオン数を説明する新しい理論を提案した。これまで提案されてきたバリオン生成モデルに対し、我々のモデルは初期宇宙の温度が低くてもバリオン生成が可能であるという利点があり、この分野において新しい枠組みを提示した。我々の理論は有効理論に基づいているので、具体的なモデルに依らず広く応用が可能である。(文献)[1] PTEP, no.12, 123B03 (2015); [2] Phys. Lett. B 747, 238 (2015); [3] arXiv:1602.04170; [4] arXiv:1510.05186
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①これまでの研究で得られていたColeman理論の結果をより一般化し、他の自然性問題についても解決出来ることを見た。特に、宇宙項問題、QCDのθ問題、ヒッグスポテンシャルの問題全てが一般化された理論を用いて解決できることをみた。これらの結果はこの原理が自然性問題を解決する有力な候補であることを示唆している。さらに、Coleman理論をインフレーションにまで応用し、観測されているCMBのゆらぎと合わせることでインフラトンポテンシャルに強い制限を与えた。以上のことから、理論を一般化しさらに他の問題に対しても適用した点で研究は順調に進展していると言える。
②新しい原理の発見のためには、現象論の観点からの研究も必要である。この一年間で、perturbativityを用いたモデルへの制限、バリオン数生成、インフレーションなど多くの観点から現象論の研究もしてきた。得られた結果はどれもモデルの詳細に依存しないため、他の多くのモデルに対しても応用が可能である。このような点から、現象論の研究も順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
我々が拡張した理論も含め、Coleman理論は基本的に低エネルギー理論の中で閉じている体系である。そこでは、プランクスケールでの物理の情報はカップリングの予言には重要でない係数に押し付けられている。しかし、我々の最終目標であるプランクスケール物理の理解のためにはそれでは不満足である。そこで、低エネルギー物理からプランクスケール物理の情報を得ることが重要になってくる。実際にそのような研究は場の理論でも盛んに行われており、例えばヒッグスの二次発散からプランクスケールでの超対称性を読み取るという研究がある。今後はColeman理論を含め弦理論などの様々な枠組みにおいて、低エネルギー物理から示唆されるプランクスケール物理を明らかにしたい。 これまでの研究で、標準模型の臨界性のうちperturbativityから得られる制限についてはモデルに依存しない形で理解出来た。一方、真空の縮退についてはまだ定性的に理解できていないので、それを理解するのが最初の目標である。インフレーションやweakスケール起源の説明のためにそのような要求が自然であることも知られており、現象論への応用も視野に真空の縮退性を定性的に理解しておくのは重要である。perturbativityの時と同様に真空の縮退性を用いてモデルの選別が可能であり、そのようにして残ったモデルは現象論への応用が広く期待され、数ある標準模型の拡張モデルの中でも有望なモデルである。
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Research Products
(9 results)