2016 Fiscal Year Annual Research Report
ウイルス・卵菌類複合抵抗性遺伝子座RCY1/RPP8の転写後発現制御機構の解明
Project/Area Number |
15J01964
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 有希代 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | NB-LRRタンパク質 / 病害抵抗性遺伝子 / 植物ウイルス抵抗性 / キュウリモザイクウイルス / Cucumber mosaic virus |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に選抜したキュウリモザイクウイルス [CMV(Y)] 高度抵抗性を喪失する突然変異誘発Col::pRCY1-HA#13 (以下,#13)系統をsuppressor of RCY1-mediated resistance to CMV(Y)(src) 変異体と名付けた.本年度は,#13をバックグラウンドとするsrc変異体9系統の表現型の特徴づけと原因変異の遺伝分析を行った.src1-src8系統ではCMV(Y)接種葉において過敏感細胞死が誘導されずCMV(Y)が全身移行した.一方src9系統では細胞死が誘導され,CMV(Y)感染はその周辺部のみに留まった.src1-src8系統ではCMV(Y)抵抗性遺伝子RCY1 mRNAとそのコードするタンパク質RCY1蓄積量ともに#13の1/100前後,src9系統では1/10程度に減少していた.以上より,変異株におけるCMV(Y)高度抵抗性の喪失は,RCY1 mRNA蓄積量の低下を介したRCY1タンパク質蓄積量の減少が原因と考えられた.各src系統とCol::pRCY1-HA#13間の交配後代F2において,src1-src8系統の場合には1-6%,src9系統の場合には98%の個体がCMV(Y)に対してERを示した.これはsrc変異がメンデル遺伝すると仮定した場合の分離比と大きく異なる.その解釈の一つとして,本現象にエピジェネティックな調節が関与する可能性を考えた.実際に,RCY1プロモーター領域のメチル化シトシン (mC) は,#13に比べsrc9系統において増加し,src1-src8系統でさらに増加していた.また#13とsrc間の交配後代F2においても,RCY1蓄積量減少とmCレベルが相関していた.一般的にメチル化により制御される植物遺伝子のSUPERMANや遺伝子スペーサー領域MEA-ISRのメチル化率を#13とsrc間で比較したときに,RCY1プロモーター領域のような劇的なレベルの変動は認められなかった.src系統におけるRCY1発現減少は,メチル化阻害剤処理によって抑制された.以上よりsrc独立9系統において,RCY1プロモーター領域のメチル化が,RCY1発現減少とCMV(Y)抵抗性レベルの低下に関与している可能性が示唆された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請研究では,RCY1におけるイントロンの存在を介した転写後制御によるRCY1タンパク質高蓄積およびCMV(Y)抵抗性増強の分子機構解明を視野に入れて実験を開始した.順遺伝学的スクリーニングの結果,RCY1の転写後発現制御に関わる因子の変異体は見いだせなかった一方,メチル化を介したRCY1転写発現制御に欠損を生じるsrc変異体を独立に9系統単離することができた.本変異体の原因変異は,RCY1プロモーター領域メチル化の抑制によるRCY1タンパク室蓄積上昇とCMV(Y)高度抵抗性に必要な因子であると推測されたため,抵抗性の強さを量的に制御する機構・手段を見出す上で追究する価値は大きく,研究に進展があったと考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
src変異体におけるCMV(Y)高度抵抗性喪失の原因変異を同定するため遺伝分析を行った結果,src変異ヘテロ植物系統における次世代の分離は,一遺伝子座の優性または劣性変異におけるメンデル遺伝の法則に従わないことが判明した.これは,パラ変異(ある遺伝子アレルの発現状態が対となるアレルの発現状態に影響を及ぼすアレル間相互作用)に類似した機構による可能性が推測された.これらのことは,src変異ヘテロ植物の自殖後代では,src変異の遺伝子型とCMV(Y)高度抵抗性喪失の表現型が必ずしも一致しないことを意味する.したがって,通常のポジショナルクローニングによって原因変異を同定することは,解析母数を極端に増やすといった方法を適用する以外には困難であり,来年度に完了することは現実的ではないと考えた.src変異は,メチル化系の機能獲得型変異か脱メチル化系の機能喪失型変異であることが推測される.そこで来年度は,既報のメチル化関連変異体を利用して,RCY1遺伝子メチル化の役割を逆遺伝学的に解析することにした.既に,RCY1を内因的に有するシロイヌナズナエコタイプC24をバックグラウンドとした,既報のメチル化関連変異体を複数系統入手した.今後はこれらの変異体系統を用いて,RCY1を介したCMV(Y)抵抗性の制御におけるメチル化の役割を生理学的・生化学的に解析する予定である.
|
Research Products
(2 results)