2016 Fiscal Year Annual Research Report
実時間領域の場の理論、弦理論の記述に向けた解析接続手法の開発
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15J02081
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川井 大輔 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 格子QCD / メソン / Smearing / HAL QCD |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、本研究の目的である場の理論の実時間ダイナミクスの理解を進めるために、格子ゲージ理論に基づいたphase shift計算アルゴリズムの開発を主に行った。昨年度の研究により、クォークに対してLapH smearingを行うコードを作成できており、それを利用することでall-to-all伝搬関数を計算することが可能になった。本年度はまずこのコードの高速化に取り組み、十分に局所化されたメソンのソース演算子を作ることができた。現在はこの演算子を用いてHAL QCD法に従ってメソン間の相互作用ポテンシャルを計算し、phase shiftや共鳴状態の質量、崩壊幅を導出する研究を行っている。 この研究で本年度得られた成果はHAL QCD法で求められたポテンシャルの演算子依存性についての理解である。従来のHAL QCD法ではソース演算子にWallソース、シンク演算子にポイントシンクを用いて計算していた。しかし、本研究で用いる演算子の組み合わせはともにLapH smearingされた演算子である。したがって、系統的に従来のポテンシャルと異なる振る舞いをすることが予想され、正しくphase shiftなどの物理量を計算できるか調べる必要があった。それに対して本年度の研究により、leading order termのみではphase shiftが正しく計算されないが、next-to-leading order termまで計算に含めることにより正しくphase shiftを計算できることを明らかにした。これはHAL QCD法の導出からも予想される結果ではあるが、今まで明らかに数値計算で示されたことは無く、非常に興味深い結果であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Phase shiftを計算できるコードの開発が今年度の研究によって完了し、実際にいくつかのチャンネルに対して質量や崩壊幅を計算できる段階まで到達したことが大きな理由である。本研究の大きな目標は、より多くの場の理論に対して実時間でのダイナミクスを計算できるフォーマリズムを構成することであるが、phase shiftは散乱について実時間のダイナミクスに関する情報を持っているため、これを計算できることは本研究課題の解決に大きく貢献すると思われる。 特に、2017年に入って以降はアイソスピン1のππ散乱のチャンネルに対してphase shiftの計算を行っており、ρメソン共鳴状態のシグナルを見つけることができた。これは格子QCDで計算するのは非常に難しいとされてきた部分であり、これに対するアプローチがHAL QCD法によって可能であることを示唆する結果を得られたのは研究課題にとって非常に大きな進歩である。 また、本年度は、超弦理論の古典的振る舞いに現れるカオス的振る舞いについてカリフォルニア大学サンタバーバラ校のDavid Berenstein教授と共同研究を進め、SU(2)行列の非常にシンプルな構造をした行列模型においてもカオス的振る舞いが現れること及びゲージ/重力対応から期待される関係式を満たすことを示した。今回用いたモデルは、最も簡単なブラックホールの模型であり、このような単純化されたモデルでも本質的に同じ性質を持っていると示せたことは、近年活発に研究されている非線形な振る舞いのゲージ理論、重力理論への影響を調べるための扱いやすいトイモデルを提供できたことになり、非常に意味のある結果であると思われる。このように、海外との共同研究においても積極的に進め、大きな成果を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後まず初めに行うのは、ρメソンに対する質量や崩壊幅の計算である。この計算を行うために今後はより多くのゲージ配位に対してアイソスピン1のチャンネルの散乱を計算するとともに、散乱断面積を格子QCDによる計算から得られたphase shiftから計算する手法の高度化手法を研究する。共鳴状態の質量や崩壊幅を計算する際に一般的に用いられる手法はBreit-Wigner formulaを実運動量での散乱断面積に仮定してパラメーターフィットする方法であるが、崩壊幅が大きい共鳴状態については正当性が疑問視されるなど問題がある。そこで、本研究課題では別の方法としてphase shiftを複素運動量空間で計算し散乱断面積を構成する手法について考え、ρメソンの質量や崩壊幅の精度良い測定を行うとともに、その後行うアイソスピン0のチャンネルの計算で用いる準備を行う。 このようなアイソスピン1のチャンネルでの研究を完成させたのち、アイソスピン0のチャンネルでのππ散乱を計算する。このチャンネルにもσメソンと呼ばれる共鳴状態が存在することが知られているが、このメソンは崩壊幅が非常に大きく質量や崩壊幅が未だ精度よく測定されていない。そこで本研究では現在までに開発した技術を用いてこれらの諸量について格子QCD計算からの測定を行い、実験へのフィードバックを目指す。
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Research Products
(5 results)