2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J02125
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
住谷 陽輔 北海道大学, 総合化学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 速度解析 / コンフォメーションエントロピー / 反応経路ネットワーク / 反応経路自動探索 / 反応性 / 選択性 / stiff問題 / 有機反応解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は主に手法開発を進めた。多段階プロファイルの速度解析を行う新手法を開発し、速度定数行列縮約法として論文誌で発表した。本手法は、反応速度式の連立方程式を繰り返し縮約することで反応物から全生成物へ至るオーバーオールの速度定数を算出できる。論文では、基本的な有機反応であるアリルビニルエーテルのClaisen転位反応へ適用し、オーバーオールの速度定数の実測値を再現した。反応プロファイルは反応経路自動探索(GRRM)法を用いて構築した。 反応プロファイルは多段階であり、Claisen転位のような簡単に見える反応であっても、多数のコンフォマーを含む反応経路がネットワークの形で得られる。原理的には、各平衡構造に対し速度式を立てて時間発展することでオーバーオールの速度定数や反応性を知ることが出来る。しかし、速い素過程と遅い素過程が混在する場合、遅い素過程が十分起こるまでの時間発展は数値的安定性と計算コストの観点で難しい。この問題は数値解法におけるstiff問題と呼ばれる。本手法はstiff問題を解決し、簡便かつ高精度な速度定数の見積もりを可能にする。 Claisen転位への適用では、反応物と生成物に対応する二つのグループが得られた。これらは人間が構造を直接見て決めることなく自動決定される。469.1Kでのオーバーオールの速度定数は1.79×10-3 s-1と見積もられ、実測値2.88×10-3 s-1をよく再現した。一方、有機反応の解析でよく用いられる律速段階のみで評価する方法では、速度定数が過大評価され、本手法との活性化自由エネルギーの差は8.2kJ/molとなる。この差はコンフォメーションエントロピーの効果に起因する。この結果は単純な分子でも上記の効果が8.2kJ/molに及ぶことを示す。本手法はこの効果を考慮した有機反応解析を簡便に行えるツールとして、今後応用が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、主に手法開発を進め、多段階反応プロファイルの速度解析を行う新手法を開発し、論文を投稿した。本手法は、研究課題に取り組む上で中心的な役割を果たすと期待できる。また、本手法をアリルビニルエーテルのClaisen転位反応に適用し、単純な分子であってもコンフォメーションエントロピーの効果が反応性・選択性に大きく寄与することが判明した。 現在、有機反応におけるコンフォメーションエントロピーの重要性に焦点を当てた研究も実施している。分子内Diels-Alder反応などについて、炭素鎖の伸長とともにコンフォメーションエントロピーの影響が大きく現れることを確認している。この結果は論文にまとめている。 一方、本手法の適用範囲をさらに拡げるため、ミクロカノニカルへの拡張に成功した。この拡張を通じ、解離反応の最終分岐比が精度を損ねることなく簡便に得られることが判明した。ミクロカノニカルへ拡張した本手法をC3H5分子などの解離反応へそれぞれ適用し、結果を論文としてまとめている。 現在までに、以上の進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに開発した速度定数行列縮約法の開発・応用を進める。まず、有機反応におけるコンフォメーションエントロピーの重要性に関する論文と、ミクロカノニカルへの拡張の論文を投稿する予定である。 また、さらなる縮約法の応用開発として、反応経路の自動探索へ組み込むことを考えている。縮約法は、適用前に何らかの方法で反応経路ネットワークを用意しておく必要があった。縮約法を反応経路の自動探索へ組み込み、縮約法を利用した速度論的シミュレーションを反応経路自動探索のナビゲーションとして用いるアルゴリズムを作成する。本手法により、指定した温度・反応時間の元で十分到達な反応経路・平衡構造を優先探索し、反応速度を支配する反応ネットワークを効率的に構築できると期待される。また、同時に速度解析の結果が得られるように設計する。すでにプログラムの雛形は完成しており、学会発表も行っている。今後、さらなる調整を行い、利便性を高める。本手法を有機反応、触媒反応などに適用し、適用性を確認する予定である。
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Research Products
(6 results)