2015 Fiscal Year Annual Research Report
NDH-光化学系I超複合体に介在するリンカータンパク質の分子進化
Project/Area Number |
15J02202
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大谷 卓人 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 光合成 / 循環的電子伝達反応 / 分子進化 / 植物生理学 / 遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
葉緑体において光化学系I(PSI)循環的電子伝達に関与するNDH複合体は、被子植物においてPSIと超複合体を形成している。この時、両者を繋ぐリンカータンパク質がLhca6である。一方、基部陸上植物ゼニゴケは、Lhca6を有さず、NDHはPSIと超複合体を形成しない。分子系統解析より、被子植物への進化の過程で、Lhca6は、集光アンテナであるLhca2から進化したと考えられる。私は、Lhca6のリンカーとしての新しい機能を生み出す分子進化に注目し、この機能を付与するドメインの同定を試みた。 Lhca6/Lhca2キメラ遺伝子をシロイヌナズナlhca6変異体に遺伝子導入し、超複合体の形成を確認した。その結果、Lhca6のリンカーとしての機能に寄与する領域は、Lhca6のC末端側ストロマ突出領域であることが強く示唆された。さらにこのストロマ領域がNDHとの結合に重要であることを明らかにした。 また、NDH-PSI超複合体におけるリンカータンパク質Lhca5とLhca6の位置は明らかになっていない。これに関する情報を得るため、major LHCIであるLhca1、Lhca2、Lhca4のシロイヌナズナ変異体を単離した。そしてΔLHCA(Lhca2,3,4KO)を含むこれら4種の変異体について、超複合体の構造を保ったままタンパク質の分離ができるBlue-Native-PAGEにより、超複合体の形成を確認した。すると一重変異体では、超複合体が形成されていたが、三重変異体ΔLHCAでは超複合体が劇的に減少した。このことから、リンカータンパク質は、複数のmajor LHCIと結合していることが明らかとなった。さらに、二次元電気泳動法により、リンカータンパク質が結合するmajor LHCIのダイマーが示唆された。これらの結果を基にNDH-PSI超複合体のモデルを提唱することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Lhca6のリンカーとしての機能に寄与する領域は、C末端側ストロマ突出領域であること、さらにこのストロマ領域がNDHとの結合に重要であることを明らかにした。また、ストロマ領域内に位置するアミノ酸に点変異を加えたキメラ遺伝子についても解析を行ったが、有効な結果は得られなかった。このことから、Lhca6のストロマ領域における構造がリンカー機能に必要であると考えられる。 リンカータンパク質とPSI複合体の結合について、PSIの結合する集光アンテナ(Major LHCI)を欠損する様々な変異株を用いて、解析を行った。NDH複合体は、Major LHCIを介して、リンカータンパク質と結合していることが考えられる。Major LHCIの欠損は、当初考えていた以上に超複合体形成に対する影響が小さく、PSI超複合体形成における6つのLHCIの機能に大きな可塑性があることが考えられた。しかし、三重変異体では超複合体が劇的に減少したことから、リンカータンパク質が結合するmajor LHCIのダイマーが示唆された。これらの実験結果をもとに、NDH-PSI超複合体のモデルを提唱することができた。リンカータンパク質のNDH複合体との結合部位の成果とあわせて、目標としたNDH-PSI超複合体の構造の理解が、着実に進んでいると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により提唱された、リンカータンパク質がmajor LHCIのダイマーと結合するモデルについて検証する。現在作成中のmajor LHCIの二重変異体や、major LHCIとリンカータンパク質の多重変異体における超複合体の形成をBlue-Native-PAGEとそれに続く二次元電気泳動により詳細に解析することで、リンカータンパク質が結合するmajor LHCIを決定する。また、Lhca6がmajor LHCIのサイトに代わりに入り、直接PSIと相互作用する可能性についても検証する。例えば、Lhca6が最も構造が似ているLhca2のサイトに入ることが考えられる。Lhca5を欠損する変異体(Lhca6を介して結合するPSIのみが存在)でLhca2の蓄積を調べることで、超複合体内でLhca2とLhca6が共存しているかを調べる。これらの結果より、リンカータンパク質とPSI―LHCI複合体の結合を明らかにする。 またlhca2変異体に、野生株Lhca6、及び一連のキメラ遺伝子を遺伝子導入し、Lhca6及びキメラ遺伝子がLhca2と置換可能かを調べる。 さらに、野生株Lhca6-HAと、ストロマ突出領域に変異を導入した機能喪失型Lhca6-HAを導入した植物を用いて、HA抗体で免疫沈降を行う。質量分析で相互作用するタンパク質を決定し、両サンプルの差分を取ることで、Lhca6ストロマ突出領域と相互作用するタンパク質を決定する。以上の結果を総合し、NDH-PSI超複合体の構造を理解する。上記の研究によって得られた成果は順次、学会で発表を行う。
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Research Products
(3 results)