2015 Fiscal Year Annual Research Report
Fermi原子気体超流動の熱力学的性質から探る秩序と揺らぎの競合
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15J02514
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田島 裕之 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | フェルミ原子気体超流動 / BCS-BECクロスオーバー / 量子多体効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、強結合理論を用いてFermi原子気体の超流動状態におけるスピン帯磁率および圧縮率の解析を行い、BCS-BECクロスオーバー領域においてそれらに現れる超流動揺らぎの影響を明らかにした。 常流動相のスピン帯磁率の定量的解析に成功していた拡張T行列理論を超流動相へとさらに拡張することによって、超流動相転移温度以下におけるスピン帯磁率の温度依存性に超流動揺らぎが与える影響を調べた。スピン帯磁率が芳田関数から離れ始める特徴的温度を超流動スピンギャップ温度と定義し、BCS-BECクロスオーバーの相図を完成させた。また、MITグループの実験結果との比較を行い、理論の定量性を検証した。弱結合領域からユニタリー領域までの計算結果は実験結果と定量的に一致した一方、強結合領域では実験結果よりも小さな値が得られた。 また、実際の冷却原子気体系はトラップポテンシャルによる非一様性の影響を受けるため、局所密度近似を用いてトラップポテンシャルの効果を取り入れたスピン帯磁率の解析を行った。その結果、トラップ内で平均されたスピン帯磁率は、一様系のスピン帯磁率と定性的に同様の振る舞いをみせることがわかった。さらに、現在の実験手法において多体効果に敏感であるスピン帯磁率の温度依存性を測定するのが困難であることから、多体効果の新たな観測手法として局所スピン帯磁率の空間依存性に着目、こちらにも超流動揺らぎに敏感であることを示した。 同様の枠組みで絶対零度近傍における強く相互作用する超流動Fermi原子気体の圧縮率の解析を行った。弱結合領域からユニタリー極限にかけて本研究の計算結果は東京大学の実験結果と定量的に一致した。強結合理論による計算結果はクロスオーバー全域で平均場近似よりも高い値を示しており、これは凝縮体間の相互作用により非凝縮対が出現する量子ディプリーションの影響であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で当初予定していたスピン帯磁率と圧縮率をBCS-BECクロスオーバー全領域で解析することに成功した。スピン帯磁率の温度依存性から超流動揺らぎが強く効き始める特徴的温度(スピンギャップ温度)を決定した。先行研究では現在実験で観測できていない1粒子状態密度に着目していたのに対し、本研究成果は観測可能な熱力学量であるスピン帯磁率が量子多体効果に敏感であることを示した。また、絶対零度近傍の圧縮率の計算結果は実験結果と定量的に一致した。 以上より、おおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、分子ボソン間の斥力相互作用の効果を適切に取り込んだ強結合理論を用いてBCS-BECクロスオーバー領域の超流動相転移温度近傍における圧縮率および比熱の解析を行う予定である。
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Research Products
(9 results)