2015 Fiscal Year Annual Research Report
スフィンゴ脂質の合成・分解両経路に関わるTERの機能解析
Project/Area Number |
15J02525
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
安部 健介 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 極長鎖脂肪酸 / スフィンゴ脂質 / スフィンゴシン1-リン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
TERは極長鎖脂肪酸伸長サイクルとスフィンゴシン1-リン(S1P)酸分解経路の2つの経路において働くトランス2-エノイルCoA還元酵素である。TERはこの2つの経路を制御し,スフィンゴ脂質の代謝を制御している可能性が示唆されていたが,その制御機構は不明であった。そこで,CRISPR/Cas9システムによるTERノックアウトHeLa細胞の作製と解析を試みたが,TER欠損による致死性のためか,HeLa細胞の全てのアレルでTERが欠損した細胞を得ることが出来なかった。しかし,siRNAによるTERノックダウンHeLa細胞を用いた解析によって,TERノックダウン細胞ではS1Pの合成酵素であるスフィンゴシンキナーゼの活性が低下していることを見出した。家族性精神遅滞を引き起こすTER P182L変異の解析では,P182Lホモ変異を持つ患者由来B-LCL細胞を用いて,S1P分解経路への影響を解析した。その結果,P182L変異はS1P分解経路に影響は見られなかった。このことから,極長鎖脂肪酸の減少が精神遅滞の原因となることが強く示唆された。TERホモログであるTERLの解析ではTERの出芽酵母ホモログTSC13遺伝子欠損株にTERL遺伝子を導入した株を作製し,TERLの飽和脂肪酸に対する酵素活性の解析を行った結果,TERLは飽和脂肪酸に活性を持たない可能性が示唆された。また,マウス筋芽細胞由来株であるC2C12細胞を用いてTERL遺伝子欠損細胞を作製した。作製した細胞に分化を誘導し,筋管形成におけるTERLの役割を解析した結果,TERL欠損によりC2C12細胞は筋管細胞への分化が大きく抑制されることが明らかとなった。このことからTERLによって合成される極長鎖脂肪酸が筋分化過程において重要な役割を担っていることが強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TERは極長鎖脂肪酸伸長サイクルとスフィンゴシン1-リン酸分解経路(S1P)の2つの経路において働くトランス2-エノイルCoA還元酵素である。TERはこの2つの経路を制御し,スフィンゴ脂質の代謝を制御している可能性が示唆されていたが,その制御機構は不明であった。研究計画では,CRISPR/Cas9システムを用いてTER欠損HeLa細胞の作製する予定であったが, TER欠損による致死性のためか,HeLa細胞の全てのアレルでTERが欠損した細胞を得ることが出来なかった。しかし,siRNAによるTERノックダウンHeLa細胞を用いた解析によって,TERノックダウン細胞ではS1Pの合成酵素であるスフィンゴシンキナーゼの活性が低下していることが明らかとなった。また,非症候性家族性精神遅滞を引き起こすTER P182L変異の解析では,予定通りP182Lホモ変異を持つ患者由来B-LCL細胞を用いて,S1P分解経路への影響を解析した。その結果,P182L変異はS1P分解経路に影響しないことを明らかにした。TERホモログであるTERLの基質特異性の解析では,予定通りTERの出芽酵母ホモログTSC13遺伝子欠損株にTERL遺伝子を導入した株を作製しTERLの飽和脂肪酸に対する酵素活性の解析を行った。その結果,TERLは飽和脂肪酸に活性を持たない可能性が示唆された。また,マウス筋芽細胞由来株であるC2C12細胞を用いてTERLノックアウト細胞を作製した。作製した細胞に分化を誘導し,筋管形成におけるTERLの役割を解析した結果,TERL欠損によりC2C12細胞は筋管細胞への分化が大きく抑制されることが明らかとなった。このことから,TERLは筋分化に重要な役割を担っていることが強く示唆された。以上のことから,概ね順調に研究が進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究ではHeLa細胞を用いたTER欠損細胞作製を試みたが,作製することが出来なかった。このことから,HeLa細胞ではTER欠損による極長鎖脂肪酸合成不全による致死性を生じている可能性が考えられた。極長鎖脂肪酸合成不全となったマウスは発生の途中で致死となるが,形態形成の初期段階までは発生が進行しており,このことは細胞の種類によっては極長鎖脂肪酸を合成出来なくとも生存,分裂することを示している。そのため,別の培養細胞株を用いてTER欠損細胞の作製を再度試みる。また,作製した細胞は予定通り極長鎖脂肪酸伸長サイクルとスフィンゴシン1-リン酸分化経路の両経路の制御機構についての解析やTERLの基質特異性の解析を行う予定である。平成27年度の出芽酵母を用いたTERLの酵素活性の解析によってTERLは飽和脂肪酸に対する酵素活性を持たない可能性が示唆されたため,前年度に引き続き,出芽酵母を用いて不飽和脂肪酸に対する酵素活性の解析をTER遺伝子欠損細胞を用いた解析と平行して行っていく。27年度の解析によってTERLは筋分化において重要な役割を担っていることが強く示唆された。また,CRISPR/Cas9システムによるノックアウトマウスの作製が容易となったため,現在予定を変更し,TERL遺伝子欠損マウスの作製に着手している。作製したTERLノックアウトマウスの骨格筋,心臓における脂質代謝を解析し,個体レベルでのTERLの機能と筋分化に重要な脂質分子を明らかにする予定である。
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Research Products
(1 results)