2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J02558
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
和田 泰敬 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 三体核力 / 核スピン偏極 |
Outline of Annual Research Achievements |
核力から出発して原子核の性質を記述することは、原子核物理学における重要な課題のひとつである。過去の研究から、原子核の様々な性質を記述するためには、三つの核子がほぼ同時に相互作用することによって生じる三体核力の効果が必要不可欠であることが明らかになっている。この三体核力の性質を調べるために申請者のグループは過去に最も単純な三核子散乱系である重陽子-陽子散乱の中間エネルギー(E/A~100 MeV)領域での散乱実験を行い、観測量の測定を行ってきた。一方で、三体核力はスピンや荷電スピンに依存する相互作用であるが、重陽子-陽子の系で実現できるのは荷電スピン1/2の状態のみである。そこで、申請者は核子をひとつ増やした四核子散乱系、特に陽子-ヘリウム3散乱の実験を行うことで、荷電スピン3/2の三体核力効果を調べることを研究の目標としている。本研究では特に70 MeVの同散乱におけるヘリウム3偏極分解能の角度分布測定を行い、三体核力のスピン依存性および荷電スピン依存性を調べることを目的としている。 ヘリウム3偏極分解能の測定を実行するためには、陽子-ヘリウム3散乱における弾性散乱起因の陽子数を高精度で測定すること、高偏極度の偏極ヘリウム3標的を開発して偏極度を高精度で測定することが必要不可欠となる。申請者は平成27年度の研究において、これら二つの開発をすすめてきた。その成果として、2015年10月に東北大CYRICで行った70 MeVの陽子-ヘリウム3弾性散乱実験において、散乱角度2点でヘリウム3偏極分解能を導出することに成功した。70 MeVでの四核子系散乱で三体核力の効果を調べる実験はこれまでに例がなく、広い散乱角度での測定へと発展させることで、原子核の記述に必要不可欠な三体核力の性質について新たな情報を得ることができると期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度における研究では、これまで開発をすすめてきた偏極ヘリウム3ガス標的の更なる高度化と、70 MeVの陽子-ヘリウム3散乱の実験手法の確立を行った。 偏極標的の高度化として、偏極度の絶対値較正、偏極度向上のための開発を行った。これまでの偏極度相対値測定方法である高速断熱通過(AFP)-NMR法について、その絶対値を較正するため、ルビジウムの電子スピン共鳴(ESR)周波数シフトの測定を行った。その結果、現在では偏極度の絶対値をΔP/P~11%の精度で導出することが可能となった。標的の偏極度を向上させるための開発に関しては、ヘリウム3の偏極緩和率を抑制するために、ガスを封入するガラスセルの洗浄強化を行った。結果として、平成27年度において安定して5%から10%の偏極度を達成している。 70 MeVの陽子-ヘリウム3散乱の実験手法の確立として、弾性散乱起因の陽子に対して信号対雑音比を向上するためのバックグラウンド抑制を行った。テスト実験によって、標的上流の真空膜や下流のファラデーカップからのバックグラウンドが非常に多いことを明らかにし、遮蔽強化によりこれらを抑制することで、過去の実験と比較して約5倍、信号対雑音比を改善することに成功した。 以上の開発の成果として、2015年10月に東北大学CYRICにおいて行った70 MeV陽子-ヘリウム3散乱実験の結果、散乱角度2点において統計誤差0.03以下でヘリウム3偏極分解能を導出することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究では、70 MeVの陽子-ヘリウム3弾性散乱におけるヘリウム3偏極分解能の角度分布測定を完遂することを目的とする。そのため、散乱実験における陽子検出器の追加、偏極標的の更なる高度化を計画している。 2015年10月の散乱実験におけるバックグラウンド対策の結果を踏まえて、更なる遮蔽強化を施した散乱陽子検出器の設計を行った。今年度これら検出器の動作テストの後、実際に散乱実験に導入することで、複数角度での同時測定を行う。 標的の偏極度を更に向上させ、ヘリウム3偏極分解能の系統誤差を抑制するために、2016年3月にこれまでよりも線幅の狭い半導体レーザーの導入を行った。この半導体レーザーを用いて標的の偏極生成の効率を向上させるために、光学素子の大型化と新しいレンズの導入によって円偏光生成のための光学系の改良をすすめていく。 標的の偏極度測定の精度を向上させるため、ルビジウムESR周波数シフトの精度向上と、陽子NMR測定の統計を増やすことによる精度の向上を考えている。ESR周波数シフト測定の精度向上については、昨年度末に導入したフラックスゲート磁力計を用いて静磁場のゆらぎを測定することで実現される。この静磁場測定のための架台装置の開発と、測定結果を用いたESR周波数の補正システムの製作をすすめていく。また、別の偏極度絶対値較正手法である陽子NMR測定について、安定して陽子NMR信号取得ができるよう測定システムの改良を行っており、信号対雑音比を改善した後に陽子NMR測定の統計を増やし精度を上げていく。 以上の開発によって、70 MeVの陽子-ヘリウム3弾性散乱におけるヘリウム3偏極分解能の角度分布測定を行い、その結果から四核子散乱系における三体核力効果について議論し、投稿論文および博士論文としてまとめる。
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[Journal Article] Study of Three-Nucleon Force Effect via Few-Nucleon Scattering2016
Author(s)
Y. Wada, K. Sekiguchi, U. Gebauer, J. Miyazaki, T. Taguchi, M. Dozono, H. Sakai, N. Sakamoto, M. Sasano, Y. Shimizu, H. Suzuki, T. Uesaka, S. Kawase, Y. Kubota, C. S. Lee, T. L. Tang, K. Yako, Y. Maeda, K. Miki, H. Okamura, S. Sakaguchi, T. Wakasa
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Journal Title
International Journal of Modern Physics: Conference Series
Volume: 40
Pages: 1660070
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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