2016 Fiscal Year Annual Research Report
沖縄「嫁」のライフデザインの変革にともなう"主婦"の再創造に関する人類学的研究
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15J02821
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
吉田 佳世 神戸大学, 国際文化学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 嫁 / 沖縄女性 / 結婚 / 移動 / 世代変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
採用年度第二年目である平成28年度は、本課題遂行のためにひきつづき文献調査ならびに現地調査を行った。 年度前半は、関係諸機関にて沖縄「嫁」のライフデザインの変化を把握する一環として、沖縄女性の移動と結婚に関する文献誌史料調査を行った。ここでは第一に人類学・民俗学・社会学において蓄積されてきた、主に沖縄の人々を主体とする海外移民や日本本土への移住および沖縄の結婚に関する先行研究の精読、第二に第二次世界大戦以後から今日に至るまでの沖縄の社会的文脈、特に労働環境の変化とそれらが及ぼす移動・結婚への影響について調査を進めた。その結果、特に人類学の文脈では、20世紀初頭から進められた海外移民や日本本土への移住経験は、沖縄の海洋文化と結びつけられながら「沖縄らしさ」として積極的に主題として取り上げられる一方、第二次世界大戦以降の沖縄に暮らす人々の移動のあり方がどのように変化していったのか、特に社会・経済的視点からの分析が十分ではないことが明らかとなった。 年度後半は上記文献誌史料調査をもとにしたレビューの作成と並行して、平成28年8月と平成29年3月に沖縄県での現地調査を行った。沖縄本島北部地域X区において1928年生れから1987年生れまで(2017年現在30歳から89歳にあたる)の計60年間分のX小学校の卒業生の動向調査を行うとともに、県内外の移動の世代変遷についての聞き取り調査を行った。また、それと並行して前年度の継続として同地域において1990年代以降に子育てをしている女性への聞き取り調査を行った。現時点では、X小学校の卒業生の動向調査は60年の内40年分の卒業生の居住地と婚姻圏を把握している状態である。 なお、研究成果の一部を『民博通信』に執筆するとともに、日本文化人類学会や国立民族学博物館国際シンポジウムにて口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の課題である30代から40代の若い世代の既婚女性にインタビューを実施するとともに、沖縄本島北部X区の結婚と移動に関する世代調査という新しい調査に着手することができたからである。上記調査により、バブル崩壊後の日本の景気低迷および米軍基地収入による福祉行政の充実や村落単位での配分金という沖縄県特有の経済・行政構造により、いわゆる「地元に残る」という選択をする若い世代が増えていることも明らかとなった。 つまり、本研究課題である「嫁」という伝統的役割は、必ずしも旧時代的なものではなく、地域の社会・経済構造と密接に絡まりながら今日も維持されていることを改めて浮き彫りとすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで収集してきた情報で、十分整理されていないために生かしきれてこなかったものを十分活用するために、資料の整理と集約化・レビューの作成については引き続き行う予定である。それと並行して、前年度から開始した沖縄本島北部X区での世代調査を継続する。 報告者の研究課題は女性の労働力化という日本社会における急務とされる問題とかかわっているために、特に社会学者や経済学者などの他の学術分野の専門家と積極的に意見交換を行いたい。なお、『文化人類学』『日本民俗学』『家族社会学』等の学術雑誌に投稿し、研究成果のアウトプットを積極的に行っていく予定である。
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