2015 Fiscal Year Annual Research Report
汗腺内の色素幹細胞の同定と悪性黒色腫の発生機序の解明
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15J02898
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
吉田 剛 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 組織幹細胞 / がん幹細胞 / ニッチ / 悪性黒色腫 / ゲノムストレス / 治療抵抗性 / 細胞死 / RASシグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は本年度、毛包の存在しない掌蹠(足底、手掌)に存在する色素幹細胞の幹細胞としてのふるまいや悪性黒色腫の発生との関連性に関して遺伝子改変マウスを用いて実験検証した。
1.末梢神経は掌蹠の色素幹細胞ニッチである汗腺分泌部に豊富に分布する:近年、造血幹細胞のニッチ因子として神経細胞の重要性が報告されている(Cell. 2011 ;147:1146-58.など)。そこで今回申請者は、汗腺を同定するために上皮細胞のマーカーケラチン5、末梢交感神経を同定するためにニューロンのマーカーTuj1に対する抗体を用いて蛍光組織免疫染色を行った。その結果、汗腺の導管よりもむしろ分泌部(secretory portion)に優位な神経細胞分布を認めた。また、坐骨神経遮断をした際に末梢神経の数だけでなく汗腺分泌部の色素幹細胞の数が減少する傾向にあることを証明した。以上より、色素幹細胞のニッチである汗腺分泌部における神経分布が、幹細胞プールの維持に関わっていることが強く示唆された。
2. ゲノムストレスは異所性分化を促進、あるいは、汗腺導管・表皮直下の色素前駆細胞を増加させる:加齢や紫外線、化学物質暴露などによるゲノムストレスは、細胞休眠状態で未分化性を維持している幹細胞の形質を変化させうると考えられている。そこで、Dct-H2B-GFPノックインマウス足底部に、発がんモデル実験でイニシエーション(DNA突然変異を誘発)として汎用されるDMBAの連続局所塗布(4回/週、1月後回収観察)を施行した。その結果、コントロールと比較して顕著に、汗腺導管および表皮直下にGFP陽性細胞が増加した。汗腺分泌部と表皮を解剖学的に連続させる導管の中にも多数のGFP陽性細胞が認められたことから、汗腺分泌部に存在するGFP陽性細胞が刺激を受けて細胞周期がオンとなり増殖した可能性が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
末端黒子型悪性黒色腫(acral lentiginous melanoma)モデルマウスについては5-6種類の遺伝子改変マウスを複雑に交配させており現在も準備段階である。そのため、実際に解析に値する遺伝子改変マウスが樹立できるまでに長期間のマウスの掛け合わせ、PCRによる遺伝子型解析の繰り返しといった根気強い実験姿勢が必要とされる。 加えて、組織幹細胞やがん幹細胞の特徴の一つである細胞死抵抗性について実験を進めている。「新しい細胞死メカニズム」ともいわれる、活性変異型RAS(NRAS, HRAS, KRAS)を有する腫瘍細胞に特異的な細胞死についても並行して解析中であり、かなりの新規データを蓄積できつつある。 このように、動物実験と細胞実験を組み合わせながら、悪性黒色腫をはじめとする難治性の変異RAS陽性腫瘍(脳腫瘍、膵がん、大腸がんなど)の新規治療戦略に結びつく観点から、がん幹細胞の特異的形質である細胞死抵抗性やニッチ因子の重要性について実験を進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
末端黒子型悪性黒色腫は悪性黒色腫の中でも浸潤能や転移能が極めて高く、紫外線などのDNA損傷とは比較的無関係に掌蹠に特異的に発症することが知られている。その臨床病理像の特徴として、色素幹細胞のニッチ因子であるstem cell factor (SCF)のヒト表皮における高い発現量に依存した、表皮直下での核ヘテロクロマチンが凝集し細胞質が明るくみえる異型細胞の増殖が特徴的といえる。対照的に、マウスでのSCF発現パターンはヒトと大きく異なるため、たとえ末端黒子型悪性黒色腫の起源細胞の出現が汗腺分泌部からであることを証明したとしても、がん幹細胞の増殖や偽分化傾向、そして浸潤・転移の動態については、既存の悪性黒色腫マウスモデルによる解析では限界が生じる。そのため、ニッチ因子の発現パターンをヒトに酷似させた遺伝子改変マウスをこれまでの腫瘍モデルマウスに交配させている最中である。 加えて、色素幹細胞を生体内から単離して培養・解析するex vivoでの実験系では、自己複製能に代表される幹細胞特異的な形質(stemness)は微小環境の影響を除外したものとなってしまう。そこで、汗腺分泌部のどのような分子やシグナルがニッチとして機能する上で重要であるのかを解明する網羅的遺伝子発現プロファイルに関するマイクロアレイによる網羅的解析が必要である。受容体型チロシンキナーゼc-kitのリガンドとして知られるSCFは造血幹細胞分化、精子形成、色素細胞発生に必須であることが知られている(Lennartsson J et al. Physiol Rev. 2012)。例えば、SCFのニッチ因子としての重要性を検証する際には、c-kitシグナルが恒常的に活性化しているモデルとして受容体、リガンドの両側面から考察する予定である。
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