2016 Fiscal Year Annual Research Report
アマゾン先住民社会からの環境ガバナンスの再検討-移動性と共同性に着目して
Project/Area Number |
15J02903
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
大橋 麻里子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2019-03-31
|
Keywords | 民族間関係 / 定住化 / 現代的移動 / シピボ / アシャニンカ / 狩猟採集民 / アマゾン先住民 / ペルー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は、アマゾンの森林に住む先住民の生活戦略について、彼らの広義の生活圏の中、政府や開発従事者をはじめとする多様なアクターとの関わり合いを通して明らかにすることである。 2年目にあたる平成28年度では、昨年度の研究成果を発表しつつ、近隣民族であるアシャニンカと民族間関係に着目し、フィールドワークで得たデータを整理し、「定住」や「移動」の観点からアマゾンの狩猟採集民の議論について整理した。 アマゾンの地理的特徴は、大きく分けて氾濫原と川の氾濫の影響をうけることのない熱帯高地のふたつに分けられ、シピボは前者、アシャニンカは後者を生活拠点としているが、調査地はこれらの境界線にあり、以前はほとんど関わりのなかったこれら2つの異なる民族の生活領域が重なる珍しい地域である。 半定住型の生活様式であったシピボは、1974年に導入された先住民コミュニティ制度によって急速に進んだ定住化と2006年に導入された「コミュニティ主体」の木材生産プロジェクトの導入を通して、アシャニンカとかかわりを持つことになった。現在、両者はスペイン語を共通語として意思疎通し、メスティソの文化であるサッカー大会や誕生日会といった娯楽を介して日常的に交流している。通常、両者は独立的に生業を営んでいるものの、大氾濫の発生によって畑が全滅し作物の収穫が不可能になった非常時に、シピボはアシャニンカに作物を売って(譲って)もらい、地理的条件が異なる場所に住んでいるゆえに救済を依頼できていた。こうした特異な出来事によって、普段は認識されない民族境界が確認・意識されていた。 アマゾン先住民に関して特定の民族集団の詳細な研究が多くある一方で、民族間関係は敵対的であるとする見解が主流であり、その詳細を示した研究はなかった。本研究では、アマゾンの地理的特徴が異なる地域に住む民族間関係の現在の様子を実証的に示すことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の課題は、先住民の生活戦略の全体像を、出身地の村だけでなく出稼ぎ先や就学先としての町を含む広範囲の生活圏について明らかにすることであるが、平成28年度は、対象集落と周辺集落に居住する他民族との関係について研究結果を整理するに留まったため。
|
Strategy for Future Research Activity |
私がフィールドワークで調査してきた先住民族シピボの人々は、居住地である村とその周辺に広がる畑や川(漁撈の場)を本拠地とするが、広い範囲を頻繁に移動している。その移動の範囲は、同じシピボの人々や他の先住民族が住む近隣の集落や、アマゾン川沿いの都市などであり、また短期の訪問だけでなく、出稼ぎや就学などによって滞在期間が長期に及ぶこともある。今後のフィールドワークにおいては、村人が都市や近隣の村に行く際に同行したり、都市に住むシピボを訪ねたりして、彼らの生活と近隣の地域との関わり合いについて、データ収集を行う予定である。 これと同時に、バナナの栽培や狩猟採集といったシピボの人々の生業について、他の地域の研究者との意見交換による比較研究を行ったり、スペイン語を生かしてラテンアメリカの他地域における先住民の生活と、彼らの近代的アクターや周辺地域との関わり合いについて調査を行おうと考えている。
|