2015 Fiscal Year Annual Research Report
ATLAS実験におけるWW弾性散乱の精密検証による別種ヒッグス粒子の質量への制限
Project/Area Number |
15J02931
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
救仁郷 拓人 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 高エネルギー素粒子実験 / LHC 加速器 / ATLAS 実験 / 新粒子探索 / ゲージボソン共鳴状態 / ジェットのエネルギー較正 / ミューオントリガー / ハドロンカロリーメータ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では2つのゲージボソンを終状態に含む物理過程の信号の強さを測定することで、新しいヒッグス粒子の存在を明らかにする。H27年度は本研究プログラムの初年度であると同時に、LHC加速器により世界最高重心系エネルギー13TeVでの陽子衝突が開始した年度である。解析手法の開発と並行して、重心系エネルギーの増大によってDAQシステムで起こる問題への対処が必要であり、そのどちらにも貢献した。 解析面では、系統誤差を削減するためにジェットのエネルギー較正精度の向上を行っている。ゲージボソンの散乱に新粒子の寄与がある場合、通常よりも強く散乱されるためゲージボソンの崩壊で生じる2本のジェットは近接し、明らかに分離しない。こうしたジェットのエネルギー較正は現状十分でなく、解析において2番目に大きな誤差(約6%)をつけているため、その削減が急がれている。 特に高い横方向運動量pTを持ったジェットで系統誤差が大きいことに注目し、改善を行っている。ミューオンのpTは良く調べられていることを用いて、2つのミューオンに崩壊したZボソンとジェットとのpTの釣り合いを調べることで較正が可能であるが、高pTではZボソンが少なく較正が困難である。そこで、既に較正された複数の低pTなジェットの系と、高pTなジェットとの釣り合いを用いて、よりpTの高い領域の較正を行う。 H27年度に取得した約3fb-1のデータを用いて研究を行っている。研究グループのミーティングやワークショップで議論を進めており、研究内容は夏までにまとめられる予定である。 また、トリガーレートを削減し、今後予定されている高輝度下でもDAQシステムを安定して運用するために、ハドロンカロリーメータ情報を用いた新しいミューオントリガーの開発を行っている。カロリーメータ情報をミューオントリガーシステムで使用するための研究が進み、H28年夏までに実際の運用が開始できる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究プログラムの初年度において、本研究を進めるために重要なジェットのエネルギー較正精度向上に着手することが出来た。これは、ゲージボソン同士の弾性散乱またはゲージボソン共鳴状態の解析の精度を上げるための最大のキーポイントの一つである。 また、もう一つ重要な要素であるミューオントリガーの安定した供給にも大きく貢献した。H27 年度にはハドロンカロリーメータで測定されたエネルギー情報をミューオントリガーシステムで使用するためのエレクトロニクスのコミッショニングを進めて、H28 年度に実際に導入出来る予定が立っている。 更に、安定した DAQ システムを運用するための貢献も行っている。原因は特定できていないが、ノイズ起源と思われる通常のイベントよりも 100 倍ヒットの多いイベントが、複数のサブシステムで数ミリ秒に渡って発生し続け、データ取得システムの再起動が必要になる事象が発生する。この事象を見つけ次第トリガーの発行を止めるためのエレクトロニクスを開発し、H27 年にインストールした。H27 年にはトリガー発行を止めてはいないが、大量のヒットを含むイベントサンプルを 200 イベント取得しており、H28 年度にトリガー発行を止めるための準備を進めている。 これらの進捗を踏まえて、研究初年度においてゲージボソンの弾性散乱や共鳴状態の解析そのものではないが、本研究の鍵を握る解析に着手出来ている。特にジェットのエネルギー較正精度の向上は、終状態にゲージボソンを含む解析を改良するために不可欠であり、H28, H29 年度にゲージボソンを使った研究を進めるための足がかりを作れたと考える。そのため、当初の予定通りに研究が進められたと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年にはH27年の約8倍にあたる25fb-1の統計量がLHC加速器から供給される予定である。H27年は加速器が運転を再開し、重心系エネルギー13TeVでの運転の初年度ということもあり、データ取得を円滑に進めることが重要な課題であった。H28年は本格的に稼働するLHCから供給される統計を使用して解析を進めていく。 H28 年度に進めるべき内容は大きく 2 つある。1 つ目は H27 年度から進めているジェットの較正精度向上である。研究実績の概要で述べたように、解析の系統誤差を削減するために、ゲージボソンの崩壊で生じる2本のジェットが近接して分離されないことから組まれる半径の大きなジェットのエネルギー較正精度向上を目指している。この解析手法を夏までに一つのノートにまとめる。さらに、現在は H27 年に取得した 3 fb-1 のデータを用いて解析しているが、H28 年に取得されるデータを用いることにより、更に高い pT を持ったジェットまで良く較正することが可能である。 もう 1 つの重要な点は、ゲージボソンを 2 つ含む事象の解析グループにおいて、1 つの解析チャンネルを決めてその解析の最適化することである。ジェットの較正精度が向上することにより、多くの解析チャンネルにおいて系統誤差が大きく削減できる。各チャンネルで更に誤差を削減すべく、1 つのチャンネルに絞って解析を最適化する。 更に、これまでの研究も引き続き現場で責任を持って進める。H28 年にはハドロンカロリーメータを用いた新しいミューオントリガーにより、高いトリガー効率 ( 98% 程度 ) を保ったまま約 20 % トリガーを削減する予定である。また、ノイズ起源と思われる事象による検出器のビジー状態が頻発する場合には、そういった事象を検知し、トリガー発行を止める機構を導入することで安定したデータ取得を行う。
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Research Products
(3 results)