2016 Fiscal Year Annual Research Report
葉緑体タンパク質分解が駆動する新たなフィードバック制御機構の解明
Project/Area Number |
15J03092
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
西村 健司 岡山大学, 資源植物科学研究所, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 葉緑体 / プロテアーゼ / タンパク質ホメオスタシス / トランスポーター / シグナル伝達 / シロイヌナズナ |
Outline of Annual Research Achievements |
葉緑体タンパク質ホメオスタシスと核遺伝子発現は共役制御されていることはよく知られているが、そのシグナル伝達機構は不明である。本研究では、「核由来の葉緑体タンパク質の分解産物(ペプチド)が葉緑体外にシグナルとして排出され、核にある自身の遺伝子発現を抑制する」という仮説を検証している。具体的には1. ペプチドを生成する葉緑体プロテアーゼ-基質の特定、2. 葉緑体から排出されたペプチドの検出、3. 包膜のペプチドエクスポーターの同定を行う。 1に関しては、前年度葉緑体ストロマのClpプロテアーゼの標的と推察された金属貯蔵因子がClpCシャペロンにより直接認識されうることを生化学的に示した。一方チラコイド膜のタンパク質分解酵素FtsHの基質単離については、前年度と今年度の免疫共沈降実験(co-IP)の結果を踏まえ、FtsHシャペロン部位のGST融合タンパク質と単離チラコイド膜を用いたプルダウン法に切り替え、基質-酵素複合体形成を試験管内で再構成後、短時間で回収することにした。2では、単離葉緑体を懸濁液中に一定時間置くことでタンパク質分解とペプチド生成を誘導させるが、その際懸念される葉緑体の安定性(破裂の程度)及び最適な等張液組成、誘導時間等を評価した。3に関しては、生化学的解析から3種の包膜ABCタンパク質がいずれも可溶性ドメインをストロマ側にもつことが分かった。なおこれらのペプチド輸送活性は学内共同研究が継続中である。一方それらの欠損変異体は、塩ストレス及び暗黒下の老化誘導処理のいずれかまたは両方において、野生株と異なる表現型を示した。さらに前年度実生のRNA-seq解析を行った変異体について、今年度は本葉においても同様に東京大のグループと共同でトランスクリプトーム解析を行い、興味深い分子表現型を見出した。また本研究に関連して葉緑体プロテアーゼの総説を2編発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1については、Clpによる金属関連因子の直接認識が確認された。過去の知見を踏まえると同因子は新規なClp基質であることが示唆される。一方FtsHでは強光ストレス処理した各種植物体から単離したチラコイド膜を用いて前年度同様co-IPを計画通り行ったものの、既知の基質と基質候補は架橋剤の有無に依らず回収されなかった。これに関しては生体内で点変異FtsHと基質の複合体は不安定または一過的で、植物生育の過程を経てチラコイド膜を調製する頃には既に両者が乖離している可能性が考えられたため、上述の方法に変更して最適な複合体精製条件を検討中である。2に関しては、単離葉緑体が比較的安定で、かつタンパク質分解もある程度誘導される条件が設定できた。また高濃度の金属存在下で生育した植物から単離した葉緑体の場合も、同条件下で葉緑体は安定でかつ上記金属貯蔵因子の分解が観察された。3についても、当初の計画通り3種のABCトランスポーターのトポロジーを決定できた。他生物種のホモログが可溶性ドメイン側から基質を取り込むことを考慮すると、これらトランスポーターはいずれも予想通りストロマ側の基質を取り込んで外側に輸送するエクスポーターである可能性が高い。また当初予定していなかったが、これら変異体をある種のストレス環境下に晒すと表現型を示すことが新たに分かった。さらに本葉のRNA-seq解析により発現変動が見られた遺伝子の中には、上記ストレス応答との関連性を示唆するもの、そして興味深いことに防御応答に関わるものが多数含まれていた。なお前年度の実生のRNA-seq解析で活性酸素に応答する遺伝子が幾つか発現上昇していたが、本年度の本葉を用いた解析でこれら遺伝子の有意な発現変動は見られなかった。これは本葉におけるH2O2蓄積量が変異体では増加していないこととも一致していた。以上の成果を総合的に判断して自己評価とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
1の基質単離は、本年度新たに導入したFtsH-基質精製法を引き続き進め、既知の基質以外にも他のタンパク質がFtsHシャペロン画分において再現よく濃縮・回収されれば、質量分析に供する。基質同定が順調に進めば、FtsH変異体内での蓄積量等の生化学的解析を目指し、当該タンパク質の特異抗体を作製する。2については、本年度確立した方法により単離葉緑体内でタンパク質分解を誘導後、外液に放出または葉緑体内に残留するペプチドの有無を野生株とトランスポーター変異体を用いて検証する。3に関しては、継続して共同研究を進め、トランスポーターのペプチド輸送活性の有無を確定する。また相補性試験により、上記表現型が当該トランスポーターの遺伝子欠損に起因することも確認する。加えてトランスクリプトーム解析を行っていない残り2つのトランスポーター変異体に関しても本年度同様本葉を用いてRNA-seq解析を行い、それらの生理的意義と3者の機能的関連性についてより詳細な知見を得る。
|