2016 Fiscal Year Annual Research Report
スマートアーク溶接への技術革新を誘起する数値解析モデルの確立
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15J03120
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小西 恭平 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 究極の短ギャップ溶接 / 二温度数値解析モデル / 狭窄ノズル / 高エネルギー密度化 / 電子放出 / 電極現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
究極の短ギャップ溶接を可能とするスマートアーク溶接法の実現を目指し、今年度の前半は昨年度に構築した二温度数値解析モデルを「狭窄ノズルを装着したティグ溶接」に適用し、狭窄ノズルが熱非平衡状態の溶接アーク現象に与える影響を検討した。数値シミュレーションで得られたアルゴンアークおよびヘリウムアークの重粒子の温度分布は両者ともに実験観察で撮影されたアークプラズマ外観と非常に一致しており、モデルの再現性の高さが確認できた。また、狭窄ノズルによるアークプラズマの緊縮効果および熱源の高エネルギー密度化はアルゴンアークで顕著であるのに対してヘリウムアークではとても小さいことが明らかとなった。これはプラズマが熱非平衡状態となるような比較的低温の領域におけるヘリウムの比熱が小さいこと、熱伝導率が高いことから考察される結果と同じ傾向を示している。さらにこのシールドガスそれぞれの特性を活かした溶接条件として狭窄ノズルの内側にヘリウム、外側にアルゴンを用いた数値シミュレーションも行った。その結果アーク中心部はヘリウムリッチで高温化し、アーク外縁部はアルゴンリッチで大きく緊縮することが明らかとなり、シールドガスの選択においても狭窄ノズルの効果を高めることができるとわかった。 今年度の後半は電極表面からの電子放出を担っている添加物の電極における拡散挙動と蒸発現象を計算する数値解析モデルを構築し、今までのティグ溶接モデルと練成することで詳細な電極現象を考慮した数値解析を実現した。溶接前には電極に2 wt.%加えられている添加物は電極先端部の表面からの蒸発により減少するが、それと同時に内部からの拡散によって供給されていく様子がシミュレートされた。また、長時間アークを点呼し続けると電極表面における添加物の蒸発と拡散のバランスが崩れ添加物が欠乏した領域から電極の急激な温度上昇が引き起こされることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
究極の短ギャップ溶接における溶接アーク現象を解明するという目的に対し、昨年度に構築した二温度数値解析モデルを「狭窄ノズルを装着したティグ溶接」に適用し、狭窄ノズルが熱非平衡状態のアークプラズマに与える影響を検討できた。ここでは、シールドガスの特性により狭窄ノズルによるアークプラズマの緊縮効果および熱源の高エネルギー密度化が変化することを明らかにし、熱源のコントロールにつながる知見を得ることができた。また、この研究成果を2016年7月に行われた国際会議「69th Annual Assembly of IIW」において発表し、有意義なディスカッションを行うことができた。 上記の研究において陰極であるタングステン電極は消耗せずその組成の変化も考慮していないが、電極先端部の詳細な現象は究極の短ギャップでの溶接シミュレーションを行っていく上で非常に重要となるため、電極表面からの電子放出を担っている添加物の電極における拡散挙動と蒸発現象を計算する数値解析モデルを構築し、今までのティグ溶接モデルと練成することで詳細な電極現象を考慮した数値解析を実現できた。 平成28年度は国際会議5回、国内学会4回の計9回の研究発表の機会があり、数値シミュレーションや実験計測によって得られた研究成果を存分に発信できた。また、その研究成果を国際ジャーナル「Welding in the world」に投稿し、2017年1月に掲載された。さらに現在2件の論文を投稿しており既に採録決定済である。
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Strategy for Future Research Activity |
タングステン電極の消耗現象を考慮した解析モデルを従来ティグ溶接および狭窄ノズルを装着したティグ溶接に適用し、その計算結果を比較することで狭窄ノズルがアークプラズマの熱源特性だけでなくタングステン電極の消耗現象に与える影響を検討する。 また、高画質の高速度ビデオカメラおよび高分解能を有する分光器を用いて短ギャップにおけるアークプラズマの温度を高精度に計測する。ここでは、狭窄ノズルを用いたスマートアーク溶接のものづくり分野への適用を見据え、狭窄ノズルの内側と外側に供給するシールドガスを変化させ、アークプラズマの緊縮効果および熱源の高エネルギー密度化が顕著になる溶接条件を検討する。 今後、熱源であるアークプラズマを高精度にコントロールするには溶接部への入熱形態を知る必要がある。そこで、溶接施工後の溶接部から断面観察用の試験片を切り出し、研磨処理および腐食を行った後、光学顕微鏡によって溶接断面形状や溶込み深さを測定し、狭窄ノズルによる入熱形態の変化を検討する。 上記の研究よって得られた成果を6月に中国の上海で開催される国際会議(The 70th IIW Annual Assembly)や国内学会(溶接学会秋季全国大会)において発表する予定である。また、実験計測および数値シミュレーションによって得られた知見をまとめ、学術論文として論文投稿し社会に発信する。
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Research Products
(10 results)