2015 Fiscal Year Annual Research Report
酵母における遺伝的変化によるフェロモン/受容体の共進化
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15J03416
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
清家 泰介 国立遺伝学研究所, 系統生物研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 分裂酵母 / 性フェロモン / Gタンパク質共役型受容体 / 生殖隔離 / 種分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫や両生類、そして酵母のような微生物まで、性フェロモンによる異性への刺激が交配に必須である。このフェロモンとその受容体の分子適合性は厳密であり、通常フェロモンは同種に作用し、異なる種にはあまり作用しない。そのため、フェロモンの遺伝的な変化が生殖隔離の原因となることが示唆されてきた。過去に実験室において、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeのフェロモンと受容体遺伝子のそれぞれを協調的に改変し、野生型集団から生殖隔離された新しい交配型細胞の作製に成功した (Seike et al., Genetics, 2012; Seike et al., Proc Natl Acad Sci USA, 2015)。この実験室での成功は、自然界でもフェロモンと受容体の遺伝的な変化が生殖隔離を引き起こしうることを強く示唆している。 これからの発展として本研究では、Schizosaccharomyces属の4種間で、フェロモン系がどのようにして進化してきたかを解明することを目的とする。具体的には、フェロモンと受容体間の特異性の検証・コードする遺伝子数の違いの変化・一次配列の多様性などを調べることにより、フェロモンと受容体の共進化の実態解明を目指す。 平成27年度はまず、Sz. pombeと最も近縁なSz. octosporus間でのフェロモン系の特異性の違いを調べた。その結果、M-factorは種特異的に作用したが、P-factorのある分子種は種を超えて作用することが分かった。またフェロモン受容体の一部を交換したキメラ体の解析から、第6膜貫通領域と第3の細胞外ドメインがフェロモン認識に重要であることが推測できた。この結果、酵母は2つのフェロモン/受容体間の認識機構を持つことにより、種の維持をはかりつつも、一方で多様性の創出に対応している可能性が浮上した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、分裂酵母Sz. pombeと近縁種Sz. octosporusとの間で、フェロモンと受容体の認識特異性の検証を行った。その結果、M型細胞から分泌されるM-factorは種特異的に作用するが、P型細胞から分泌されるP-factorは種を超えて作用することを明らかにした。またM-factorの一次配列は保存性が高いが、P-factorの一次配列は極めて多様であることを発見した。この結果はP-factorの経路がM-factorの経路よりも、比較的変化に柔軟であり、多様性創出に大きく寄与している可能性を示唆している。またM-factorのフェロモン受容体のドメインを種間で網羅的に入れ替えることにより、M-factorの認識には204-264に位置するアミノ酸 (第6膜貫通領域から第3細胞外ループ)が極めて重要であることが分かった。このように計画通り、フェロモンと受容体の遺伝的変化によって引き起こされる生殖隔離の実態が、緻密に解明されつつあると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の結果を踏まえると、「M-factorによる認識は特異性が高く、種ごとに厳密に規定されているが、P-factorによる認識は特異性が低く、異種間での反応も起こりうる」可能性が高いと考えられる。この仮説を検証するため、平成28年度は引き続き実験を行いたいと考えている。 平成28年度以降は、Sz. japonicus, Sz. cryophilusにおいても同様の解析を行う。ただしSz. japonicusのM-factorの構造遺伝子においては、未だに同定されていないため、該当遺伝子を同定することが先決である。そこで培地中からフェロモンを精製し、質量分析によりフェロモンの構造を決定する。その明らかになったペプチドの一次配列からゲノム上の位置を特定し、遺伝子を同定する。またSz. pombe以外の遺伝子導入は現状では困難であるので、条件検討により遺伝子導入法の確立を目指す。またこれら2種とのキメラ型受容体を作製し、フェロモンとの交叉反応により、認識特異性の検証を行う。この一連の研究により、受容体がフェロモンを受け取る仕組みの解明も期待できる。
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Research Products
(8 results)