2016 Fiscal Year Annual Research Report
弱重力レンズ高次統計による暗黒物質と暗黒エネルギーの解明
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15J03450
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
白崎 正人 国立天文台, 理論研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 宇宙の大規模構造 / 重力レンズ / 数値シミュレーション / 銀河撮像観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題で取り扱う重力レンズ現象とは、遠方天体の像が、観測者と遠方天体の間に位置する質量分布によってゆがめられる一般相対論的な効果である。一般に重力レンズ効果による像のゆがみ具合はわずかなものであるが、統計処理を施すことにより視線方向に位置する質量分布(Convergence)を再構築することが可能である。重力レンズ現象によって再構築された質量分布は、我々の宇宙の組成や膨張史に依存しているために、重力レンズ解析により我々の宇宙の組成や膨張史に制限を与えることができる。 採用第2年度は、すばる望遠鏡の広視野撮像カメラHyper Suprime-Cam(HSC)を用いた大規模銀河撮像観測による重力レンズ解析を念頭においた宇宙論研究を行った。現在世界各地ですすめられている銀河撮像観測は、いずれも1000平方度を超える広視野を観測する予定である。このような現状を鑑み、申請者は全天を確保する弱重力レンズシミュレーションを利用し、現実的な銀河撮像観測の模擬データの作成に取り組んだ。作成した模擬観測データは、実際の観測結果の統計誤差を評価するために広く用いられると期待される。申請者が開発した模擬観測データの作成手法は、実観測で得られる銀河の形状情報と三次元位置情報をもとにしているため、観測に起因する複雑な効果を考慮しやすいという利点がある。申請者は、開発した手法を、現存する銀河サーベイSloan Digital Sky Surveyによる銀河データに適応し、48個の模擬観測データから重力レンズ解析における統計誤差を精度よく決定した。模擬観測データを用いた統計誤差評価を利用すると、これまで誤差評価できなかった大スケールの物質分布相関を宇宙論解析に利用できることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
すばる望遠鏡の広視野撮像カメラを用いた銀河撮像観測は予定通り進んでおり、その観測デザインに即した模擬観測データの作成が平成28年度の大きな課題であった。この課題については、大規模な数値シミュレーションと最適化されたパイプラインを用いることで、比較的高速に1000回程度の模擬観測を実現でき、すぐにでも実際の観測結果に応用可能な段階にある。また、模擬観測データの開発・応用と並行して、重力レンズデータが持つ宇宙論的な情報の理解を深めるための理論的な研究も行うことができ、研究成果は査読付き論文として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで開発してきた模擬観測データを最大限応用して、実際の観測データとの直接的な比較を行い、宇宙の重力源の大半を占める暗黒物質と、宇宙加速膨張の謎に迫るための研究を行う。具体的には、銀河位置と銀河形状の相関関数を用いて、銀河まわりの質量分布を精密に測定し、銀河と暗黒物質の統計的関係性を明らかにする。この結果は、銀河自身の空間分布を介して、暗黒物質の空間分布を再構築することを可能にする。 また、銀河撮像観測の重力レンズ解析を通じて、異なる手法を用いて、視線方向の物質分布を推定し、得られる物質分布の極値を用いた統計解析により、宇宙加速膨張の物理モデルである修正重力モデルや暗黒エネルギーモデルに制限を課す。 また、得られる物質分布と、ガンマ線観測を組み合わせることで、暗黒物質の代表的な素粒子的な性質である対消滅現象や崩壊現象を探査する。
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Research Products
(7 results)