2015 Fiscal Year Annual Research Report
がん細胞で異常化した酵素を検出する細胞内イメージングシステムの開発
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15J03608
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中村 雄太 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | プロテインキナーゼ / ペプチド / プローブ / 活性検出 / がん |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、がん関連酵素であるプロテインキナーゼ(PK)を利用したがん診断、治療基盤の創製に向けて、PK活性検出系の基盤技術の確立とPKを利用した治療システムの実用化に向けた研究を実施した。細胞内には数百種類ものPKが存在するが、それらの役割は、増殖や生存、細胞死の制御である。PKの異常化は、がんの悪性度と深い関連性が報告されている。したがってPK活性の検出は、がん創薬や治療において重要な指標となる。そこで、本研究では、生細胞中でのPK活性検出を可能にする新規ペプチド型プローブの開発を行った。プローブの開発において、数百種類も存在するPKに対応するために、汎用的かつ簡便なシステムの確立を目指した。プローブの合成には、ペプチド合成の一般的な方法であり、自動化も可能であるFmoc固相合成法を用いることで、簡便かつ迅速な合成が可能となった。PK活性を検出する上で、ペプチドの立体構造の変化を利用するため、PKに応答していないときは構造変化をしないように、剛直なアミノ酸であるプロリンをつなげたプローブをデザインした。本プローブを用いることで、1.5倍程度の蛍光強度の変化が測定できた。今回の結果から、PKの活性検出が可能であること、またプローブの分子設計に対して汎用的な知見を得ることができた。具体的には、生きた細胞中でも感度よくPKを検出するために、プローブを長くすること、親水性が高いアミノ酸を組み込むことがよいことが明らかとなった。また本年度は、PKを利用した治療システムの実用化に向け、がん細胞選択的に薬効を制御する薬剤の開発を行った。血中で凝集してしまい全身投与ができなかった従来の薬剤において、その血中安定性を改善した。これらの研究結果から、がん関連酵素を利用して、がんを診断・分析し、有効な治療法でがんを治療することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、①ペプチド型プローブの合成と、②精製酵素を用いたペプチド型プローブの評価、という計画を立てて、実験を行った。 ①に関して、プローブの合成方法の確立ができ、予定通り進めることができた。具体的には、ペプチド合成の一般的な方法であるFmoc固相合成法を用いて、プローブの分子設計の最適化を試みた。まず様々ながんで異常化しており、その基質ペプチドの配列が短い、Srcをターゲットとすることで、合成時間を短縮した。次にプロリンを修飾することで、構造に剛直性を持たせ、リン酸化前に2つの蛍光基が近づかない構造を設計した。さらに、Fmoc固相合成でも分解せず、かつ活性検出において重要な高い光安定性をもつ蛍光基(アクリジンとベンゾ[a]アクリジン)をプローブに組み込むことで、簡便に合成することに成功した。 ②に関しては、①の実験結果から、新しい知見が得られた。①で合成したプローブを用いることで、1.5倍程度の蛍光強度の変化が測定できた。しかし、この実験条件は、メタノール溶液中であった。これプローブの水溶性が悪く、細胞の条件に近い水系バッファーでは測定できなかったためである。そこで、この結果から、プローブに親水性のアミノ酸を修飾することで、プローブの水溶性を改善すればよいという分子設計に対する知見を得ることができた。 ①、②から、PK活性の検出に向けた、プローブの分子設計に対する知見を十分に得ることができており、進捗状況はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、より高感度な活性検出を可能にするプローブの開発を目指す。今年度の研究成果から、1.5倍程度の蛍光強度の変化が測定できたが、より実用的なPKの活性検出を行うために、100倍程度の蛍光強度の変化を目指す。そのために、今回得られた知見をもとに、プローブのアミノ酸配列の最適化を図っていく。また、PK活性検出を実用化していくうえで、その治療方法が実用化できていないという従来のがん治療の問題点がある。そこで、PKに応答することで、治療効果を発揮するがん治療方法の確立に向けた研究にも精力的に取り組んでいく。がん診断と治療を両立することができれば、従来の治療では克服できなかったがんに対して、有効な治療法として展開できることが期待できる。具体的には、所属する研究室において、PKに応答して、がんの治療遺伝子の発現をコントロールするポリマーを開発している。また本年度において、薬剤として全身に投与できるように、ポリマーの血中安定性を改善することに成功している。そこで、今後は、がん細胞選択的な治療と高い血中安定性を併せ持つ薬剤の開発も行う。PKを利用したがん細胞の診断と、がん細胞選択的な治療システムの実用化を目指した研究を行う。
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Research Products
(5 results)