2015 Fiscal Year Annual Research Report
ダイオキシンによる出生児発育障害:周産期児の成長ホルモン低下の意義とその機構
Project/Area Number |
15J03653
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
服部 友紀子 九州大学, 薬学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 胎児成長ホルモン / ダイオキシン / 発育障害 / 芳香族炭化水素受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
妊娠母体のダイオキシン曝露により出生児に出現する発育障害は、障害発現に要する用量が小さく、影響が長期間継続することから問題が大きい。これまでに私は、最強毒性のダイオキシンである 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) 母体曝露により、周産期児の脳下垂体において成長ホルモン (growth hormone; GH)発現が顕著に低下することを見い出した。GH は児の発育に必須であることから、TCDD は発達期の GH 低下を介して、成長抑制や成長後の障害形質のインプリントをもたらすとの仮説が想定される。本研究では、TCDD 曝露胎児に直接 GH を補給しその効果を検証することで、胎児期 GH 低下の毒性学的意義を検証した。 TCDD 曝露胎児に GH を補給しその効果を検討した結果、GH の下流で働く insulin-like growth factor-1 (IGF-1) 発現ならびに出生児体重の TCDD 依存的な低下は、GH の補給により正常水準まで改善することが明らかとなった。さらに、成長後に生じる短期記憶障害や脂質代謝異常も胎児への GH 補給により改善ないし改善傾向を示した。 さらに、ダイオキシンによる毒性発現に重要である芳香族炭化水素受容体 (aryl hydrocarbon receptor; AhR) が胎児期 GH 低下に関与するか否かを検討するため、AhR 欠損ラットを用いて検討を行った。その結果、野生型の児において生じる TCDD 依存的な GH 発現の低下は、欠損型では全く認められなかった。 以上の成果から、TCDD は AhR の活性化を介して児の GH ならびに IGF-1 発現を減少させ、発育を障害することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) が児の growth hormone (GH) 低下を起点として発育を障害する可能性を検証することを目的に研究を遂行した。胎児期 GH 低下に基づく障害を明らかにするため、TCDD 曝露胎児に直接 GH を補給しその効果を検証した。その結果、TCDD 依存的な胎児期の GH 低下とそれに基づく IGF-1 低下が出生後早期に出現する低身長または低体重の主たる要因であることを実証することができた。さらに、胎児期の GH 低下は成長後の短期記憶障害や低コレステロール形質に対しても一定の寄与を有することが見い出された。現在、胎児期に GH を補給した児の成長後の肝臓および血液を用いてメタボローム解析を行い、障害の規定因子またはバイオマーカーの探索を行っている。今後は、骨および筋肉への影響を検討するため、各組織切片のヘマトキシリン-エオジン染色による病理組織学的な解析、あるいは、骨代謝または形成に関わる細胞マーカーやタンパク質の mRNA 発現および血中レベルの変動を解析する予定である。 さらに、当初の計画には含まれていなかったが、芳香族炭化水素受容体 (aryl hydrocarbon receptor; AhR)欠損ラットを用いて、本障害に対する AhR の寄与も検討した。その結果、TCDD は胎児の AhR 活性化を介して GH 発現を抑制し発育を障害することも明らかにすることができた。 従って、本年度は胎児期の GH 低下の毒性学的意義をある程度明らかにすることができ、またAhR の寄与についても検証することができたため、おおむね順調に進展したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) 依存的な胎児期 growth hormone (GH) 発現低下の機構解析を行い、原因因子を特定するとともに治療法の確立を目的とする。先ず、TCDD が胎児期の GH 産生細胞の分化や増殖を選択的に抑制する可能性を検討するため、TCDD 曝露胎児より脳下垂体初代培養細胞を調製し、GH 抗体で細胞を染色する。これをフローサイトメトリーに付し、細胞の発現状況を解析する。細胞数の減少が認められた場合は、TUNEL 染色をおこない、TCDD が胎児脳下垂体におけるアポトーシスに及ぼす影響を解析する。また、セルソーターによって TCDD 曝露胎児の脳下垂体より GH 産生細胞を分取してマイクロアレイ解析を行い、TCDD による障害に直結する遺伝子を探索する。推定された遺伝子に関しては、siRNA や遺伝子導入により発現を変化させ、GH 発現に影響が生じるか否かを検討し、GH 低下を規定する因子を解明する。障害規定因子が決定した場合、その補給あるいは阻害剤を処理し、GH 低下が回復するか否かを検討する。 上記の解析で影響が認められなかった場合、エピジェネティック制御に対する影響並びに、GH 合成制御系に対する影響の検討を行う。
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