2015 Fiscal Year Annual Research Report
局所的神経刺激と神経活動可視化の同時適用による運動神経細胞の新機能解明
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15J03655
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松永 光幸 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 運動神経細胞 / Caイメージング / オプトジェネティクス / 電気シナプス |
Outline of Annual Research Achievements |
ショウジョウバエ幼虫のぜん動運動をモデルとして、運動神経細胞(MNs)がどのように運動回路に作用し運動を制御するのかを解明することを目的とした。 ショウジョウバエ幼虫は尾端から頭端へ連続的に筋収縮を伝播させるぜん動運動により前進する。この運動は、腹部神経節内において尾側から頭側へかけて各神経分節内のMNsの活動が連続的に伝播することにより生成される。 平成26年度までに、GCaMPをMNsに発現させた単離神経節において、MNsの活動の伝播波を尾側から頭側への連続的な蛍光強度上昇、すなわち運動波として捉えることに成功していた。続いて、運動波を観測しながら、MNsの活動を局所的に抑制するために、ハロロドプシンをMNsに発現させ、単離神経節内において、光刺激を神経根特異的に与えた。その結果、運動波の頻度が劇的に減少することを見いだしていた。一方、MNsの局所的な活動亢進の影響を調べるために、RCaMPとチャネルロドプシン2をMNsに発現させ、MNsの活動を局所的に亢進した。運動波の頻度は、MNsの活動を亢進することにより上昇した。これらの結果からMNsの局所的な活動操作が、運動波の生成頻度に影響を与えることを明らかとしていた。 平成27年度においては、上記過程に電気シナプスが関与することを明らかにした。電気シナプスの構成要素であるshakBの変異体において、MNsの局所的な活動操作を行うと、正常体において運動波の頻度を減少させたMNsの局所的な活動抑制が、shakB変異体では効果を与えなかった。同様にMNsの活動亢進が波の生成頻度へ与える影響も消失した。このことから、MNsの活動操作による波の生成頻度変化は電気シナプスを介していることが示唆された。 以上のように、これまでにMNsの活動が運動波の頻度に影響を与えることを発見していたが、平成27年度において、この過程に電気シナプスが関与することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請段階において、松永は、ショウジョウバエ幼虫の運動神経細胞(MNs)の局所的な活動変化が、運動波の頻度変化を引き起こすことを明らかとしていた。そのメカニズムとして、以下の二つの可能性を考えていた。すなわち、MNsが中枢神経系に入力を与えるのは、①化学シナプスを介した経路である、②電気シナプスを介した経路である、という二つの可能性であった。 平成27年度において、これらの仮説のうち、どちらが実際の生き物の中で起こっている現象であるかを調べるために、松永はまず電気シナプス変異体を用いた。電気シナプス変異体を用いると、正常体で見られたはずの波の生成頻度変化の表現型が消失することが明らかとなった。この結果は、MNsの局所的な活動変化が波の生成頻度変化を引き起こすという表現型が、電気シナプスを介して達成されていることを示唆している。 このように、前年度に与えた二つの仮説のうち、実験を通して、そのうちの一つが、実際の生き物の中で生じていることを示した。したがっておおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに松永は、MNsの局所的な活動変化が、運動波の頻度変化を引き起こすこと、その過程に電気シナプスが関与していることを明らかとしていた。本年度はまずこれらの研究結果をまとめ、論文に発表する。 続いて、以下の仮説を実験によって確かめる。すなわち、①MNsが介在ニューロン(INs)に、電気シナプスを介して結合していること、②これらの電気シナプスが、波の生成頻度変化に重要であること、の二つである。これらの仮説が、生物内で実際に生じている現象であるか調べる。 まずMNsが電気シナプスを介して、特定のINsと結合しているかを調べるために、低分子量の色素(Lucifer yellow)を単一神経束に注入する。もしMNsがINsと電気シナプスによって結合しているならば、MNsに対応するMNsだけでなく、INsも色素によって染まるはずである。この結果からMNsがINsと結合しているかを調べることができる。続いて、MNsの電気シナプスが波の生成頻度変化に重要であるかを調べるために、RNAi法を用いる。MNs特異的に、電気シナプスの構成要素であるshakBの発現を抑制し、この系統に対し、今まで同様にMNsの活動抑制、活動亢進を行いながら波の生成頻度を測定する。もしMNsの電気シナプスが波の生成頻度変化に重要であるならば、正常体で見られはずの波の生成頻度変化が、この系統では見られなくなることが期待される。この実験を通して、MNsの電気シナプスが波の生成頻度変化に重要であるがを明らかにすることができる。 これらの研究によって、MNsの活動変化が、どのような経路を通して、波の生成頻度に大きな影響を与えるかを調べることができる。この結果は運動回路の作動機構を解明する上で重要な示唆を与えられると期待される。
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Research Products
(1 results)