2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J04115
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
沼田 彩誉子 早稲田大学, 人間科学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 移民研究 / ディアスポラ / オーラルヒストリー / タタール / イスラーム / 極東 / トルコ / アメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究が対象とするのは、ロシア革命後にヴォルガ川中流域から極東へと避難し、戦後はトルコ・米国へと移住したタタール移民とそのディアスポラである。従来の研究では戦前日本の回教政策を分析視座とするのに対し、報告者は、極東生まれの2世、トルコ・米国生まれの3世のオーラルヒストリーに着目し、聞き取りに重点を置いている。 2014年度末までに行った調査・研究からは、戦前の生活実態に加え、戦後の移住に関して大多数がまずはトルコに渡ったこと、その後定住する者と米国へ再移住する者とにわかれたことが判明した。こうした移住傾向の背景と要因を、移民個々人の視点と社会的・歴史的文脈の双方から解明することを目的とし、2015年度はトルコでの長期海外調査を行った。 具体的には、集住地であるイスタンブル及びアンカラを中心に、2世・3世に対する聞き取りやフィールドワークを実施した。また満州、朝鮮半島、日本、トルコ、米国で撮影された写真や、タタール移民協会が発行した雑誌、移民自身の手による自叙伝等の収集を行った。 関係者の世代交代が進むなか、極東での生活やトルコ・米国への移住経験、その後の生活に関し、聞き取り及び写真の特定や私文書の調査は、喫緊の課題である。特に極東生まれの2世は、日本・イスラーム関係の曙の時代である20世紀前半の生き証人であり、極東、トルコ、米国を取り結ぶ軸のなかでの社会史とも接点をもちながら、かつ世界規模で進む現代の移民現象の稀有な主体である。 今後は、こうした個々の語りを当時の極東・トルコ・米国社会の状況や移住制度、移民コミュニティの変遷との関わりにおいて分析する。それぞれの経験を単なる事例に押しとどめるのではなく、数世紀にわたるタタール・ディアスポラの歴史の中に位置づけることを最終的な目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度は、トルコ共和国に滞在しつつ、現地に暮らす極東出身タタール移民に対し、聞き取りやフィールドワーク、史資料調査に取り組んだ。特に、関係者の世代交代が進むなか、タタール移民の集住地であるイスタンブル、アンカラにおいて、トルコ語を駆使し、戦中期の経験をもつ最後の語り部たちの記録を集め、極東からトルコ・米国への移住の様子を含む多くの未公開資料と、資料に関する情報提供を受けることができた。また、アンカラ在住タタール移民協会の設立50周年という節目のときに、現地で記念式典へ参加し、トルコ各地に加え、タターリスタン共和国、米国、カナダ、オーストラリア、フィンランドから訪れた200名を超える参加者との交流の機会を得たことは、トルコにおける長期調査の集大成といえる。このように、移住の経験や思いを語ることができる世代と接触し得る機会を存分に生かすと同時に、古書店、ボアジチ大学図書館、アタチュルク図書館、共和国文書館、国立図書館においても、関連資料を収集した。さらに、シンポジウムへの参加や各人への訪問によって、現地の関連分野の研究者とのネットワークも構築した。一連の積極的な調査・研究と得られた成果から、本研究課題は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は、2015年度長期海外調査を通じて収集した録音データの文字起こしと、史資料の整理を行い、分析作業を進める。また各種調査を通じて、データ及び分析結果の補足・補強を行う。 国内では、戦前・戦中期日本におけるタタール移民の集住地であった東京・神戸・名古屋において、トルコ・米国への移住を生み出した背景を明らかにする。現在も日本に居住する数名の2世への聞き取りを実施するとともに、個人所蔵の史資料の発掘及び情報収集を行う。また、戦間期に建設された東京回教学校や神戸モスクを訪問する。早稲田大学中央図書館では『大日本回教協会寄託資料』(1938~45年)、外交史料館では移民関連資料、兵庫県公館県政資料館及び名古屋市市政資料館では移住前のコミュニティに関する資料を収集する。 国外では、米国とトルコにおいて調査を実施する。米国では、集住地であるサンフランシスコとニューヨークにおいて、タタール移民協会に関する調査と、2世、3世への聞き取りを行う。特に、米国へ直接またはトルコを経由して渡った人々の移住理由から、彼らのトルコへの評価を読み取ることで、トルコ定住者の語りを相対化する。サンフランシスコでは2012年に短期調査を実施し、協会役員の協力を得つつ豊富な個人所蔵の資料を確認しており、時間的制約から精査できなかったそれら資料の収集も行う。 トルコでは、イスタンブルとアンカラを再訪し成果報告を行うとともに、聞き取りと、ボアジチ大学図書館・アタチュルク図書館・共和国文書館での資料収集を補足調査として実施する。なおトルコ調査に関しては、昨今の不安定な情勢を鑑み、渡航前に十分な安全情報の収集に努める。
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Research Products
(1 results)
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[Book] Kotodama Istanbul-Hajimari2016
Author(s)
Sayoko Numata, Junta Akamatsu, Chieko Adachi, Vaner Alper, Aysegul Arkan, Ryoko Asano, Onur Ataoglu, Emine Ataman Koc, F.adime Aygul, Erol Barlas, Mehmet Emin Barsbey, Nezih Basgelen, Sema Basgelen, Hayri Oznur Cilingiroglu, Murat Dundar, Esin Esen, Selcuk Esenbel, Kaori Goto, Murat Gulsoy, Ela Nazli Gurdal他
Total Pages
218(2-10, 133-135)
Publisher
Arkeoloji ve Sanat yayinlari