2015 Fiscal Year Annual Research Report
人工エナメル質形成を目指した細胞間結合分子の機能解明
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15J04116
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
千葉 雄太 東北大学, 歯学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 歯の発生 / エナメル芽細胞 / 糖脂質 / 細胞分化 / 遺伝子発現 / 細胞内シグナル / 細胞間結合 / 増殖因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
歯の最表層に存在するエナメル質は外部刺激から歯を保護する役割を持つ。エナメル質形成を行うエナメル芽細胞は歯の萌出後に消失してしまうため、人体においてエナメル質は再生しない。我々はエナメル基質であるアメロブラスチン(Ambn)がエナメル質の形成に必須の分子であることから、エナメル芽細胞への分化能を有する歯原性上皮細胞株を用いてAmbn発現誘導法を検討してきた。しかしながら、これまでの方法ではin vivoに匹敵する結果を得られていない。本研究では、複数の増殖因子、細胞間結合に関わる分子コネキシン43(Cx43)、細胞内シグナルに関わる因子の同時制御による新規の分化誘導法の確立を目標としている。 神経成長因子Neurotrofin-4(NT-4)は歯原性上皮細胞において、細胞膜に発現している受容体TrkB-FLと結合することによりERK1/2の活性化を介してAmbnの発現を亢進する。歯原性上皮細胞にはGb4というスフィンゴ糖脂質が発現しているが、Gb4の歯原性上皮細胞における機能は不明である。先行研究より、Gb4はNT-4、Cx43と協働してエナメル芽細胞分化誘導を促進するという仮説を立て、その機能を解析した。 実験の結果、歯原性上皮細胞において、Gb4がNT-4受容体TrkB-FLの発現を促進し、ERK1/2のリン酸化を介してAmbn発現を亢進することが明らかとなった。Gb4はCx43と共にエナメル芽細胞の分化中期から成熟期にかけて発現しており、Cx43と協働している可能性がある。 Gb4、NT-4、Cx43は歯原性上皮細胞において、ERK1/2のリン酸化を介したAmbn発現誘導に重要な役割を果たしていることが明らかになった。これらの知見はエナメル質再生へ向けて歯の発生機構解明に寄与し、エナメル質の再生が実現することで、現在までの代替材料を用いた歯科医療は大きく変化する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、複数の因子を組み合わせることでin vivoに匹敵するAmbnの発現を誘導するため、増殖因子、細胞間結合の状況、細胞内シグナルに関わる因子の同時制御による新規の分化誘導法の確立を目標としている。 本年度はその第一歩として、Cx43と協働してエナメル芽細胞分化誘導を促進する候補分子のスクリーニングを行い、Gb4、NT-4、Cx43が歯原性上皮細胞において、ERK1/2のリン酸化を介したアメロブラスチン発現誘導に重要な役割を果たしていることを明らかにした。 一方、Hippo伝達経路関連分子Mst1/2の歯原性上皮細胞における機能解析のため、Mst1/2発現ベクターの作成を行い、歯原性上皮細胞株SF2を用いてMst1/2過剰発現細胞を調整することに成功した。Mst1/2を過剰発現させた細胞はアポトーシスが誘導されるため、当初至適細胞数の検索に時間がかかったが、その条件を決定することができた。 また、細胞間結合の阻害によるSF2細胞への影響を解析するため、ギャップ結合阻害剤oleamide、IP3受容体阻害剤2-APBの至適濃度、並びに培養時間の検討を行った。これらの試薬は先行研究でも使用されていたが、至適濃度は細胞種により異なり、また高濃度では細胞為害性を示す為、濃度の決定により実験の進展が見られた。加えて、細胞の刺激に用いる増殖因子TGF-β1の濃度及び刺激時間を確認し、先行研究の再現性を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究指導の委託による海外渡航のため、当初の研究計画より変更が生じる予定であり、平成28年度はエナメル芽細胞の分化機構の解明の点からも、分化に関わる新規分子の同定を目的に実験を行う。 歯の最表層に存在するエナメル質は外部刺激から歯を保護する役割を持つ。エナメル質を形成するエナメル芽細胞は、歯の萌出後には退縮・消失してしまうために、エナメル質は再生せず、同細胞の採取は困難である。したがって、エナメル質を伴う歯の再生にはiPS細胞等の多能性幹細胞の利用が必要と考えられる。しかしながら、エナメル芽細胞の分化機構は未だ不明な点が多い。 我々の研究グループでは、エナメル芽細胞の発生に関わる転写因子、エピプロフィン(Epfn)、T-box1(Tbx1)を同定し、発現レベルの異なるEpfnがエナメル芽細胞の分化に応じて異なる作用を有することを明らかにした。先行研究より、EpfnがTbx1との干渉により原性上皮幹細胞マーカーSox2の発現を抑制することで、歯原性上皮幹細胞のエナメル芽細胞系列への運命決定を誘導するという仮説を立てた。しかしながら、歯原性上皮幹細胞の維持に関する遺伝子やエナメル芽細胞系列への運命決定を誘導する遺伝子は未だ明らかになっていない。 今後は歯原性上皮幹細胞とエナメル芽細胞系列細胞の分化レベル別に遺伝子発現の違いを解析し、幹細胞の維持に関する遺伝子やエナメル芽細胞系列への運命決定を誘導する遺伝子の同定、解析を行う。 本研究ではエナメル芽細胞の分化機構を明らかとし、幹細胞からエナメル芽細胞への細胞系列の決定に関する因子を同定することで、多能性幹細胞からエナメル芽細胞への分化誘導法を確立する知見とする。また、同細胞は、口腔上皮の陥入により生じるため、本細胞の分化機構の解明は、同様の発生を示す他の器官(唾液腺等の腺組織、肺、腎臓等)の再生にも応用可能な知見となりうる。
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