2015 Fiscal Year Annual Research Report
寄生性線虫が誘導する合胞体に着目した植物の細胞融合機構の解明
Project/Area Number |
15J04623
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大津 美奈 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 二光子顕微鏡を用いた新イメージング技術の確立 / 深部イメーイング / ライブイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
植物において細胞融合は、成熟後も組織を柔軟につくり変える植物の新たな可能性を象徴する興味深い現象である。そのなかでも、シストセンチュウ(以下、線虫と記述)の感染で誘導される細胞融合は、種々の作物に重大な被害をもたらす線虫の防除の観点からも解明が求められている。宿主植物の根の維管束近傍に到達した線虫は、エフェクターと称される分子を宿主細胞内に分泌し、宿主細胞同士を未知の機構により融合させ合胞体と呼ばれる巨大な多核細胞を作る。線虫は根の最深部である維管束近傍に感染するため、主に切片観察が行われていたが、切片観察では細胞融合の瞬間や、三次元的に広がる融合した合胞体を捉える事が出来ない。そこで、線虫の感染メカニズムを解析する基盤技術として、時空間的なイメーシング系(動的な細胞融合を捉えられるライブイメージング系や、合胞体全体を鮮明に捉える全組織イメージング系)を確立した。それらの技術を駆使する事で、マメ科植物の分厚い根内部の観察に成功した。そして、これまでの切片観察では観察できなかった、根内部での線虫の動きや、合胞体の詳細な3次元構造が明らかとなった。本研究で確立した感染組織の時空間的イメージングと、合胞体と線虫の分泌腺のトランスクリプトーム解析を組み合わせて、線虫感染に必須な因子の機能解析を進めている。また、この技術は、線虫以外の植物病原微生物の感染過程の可視化にも応用できると考えられ、謎の多い植物-微生物間相互作用の解明への貢献が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、まず、ライブイメージング系の確立を行った。植物に寄生する線虫では、形質転換技術が確立されていないため、宿主植物内に侵入した線虫を観察するためには、線虫を生きたまま蛍光ラベルする必要がある。そこで、本研究では、二光子顕微鏡での観察にも適した、生きたまま線虫を染色できる蛍光試薬を複数見いだした。一方、宿主植物の細胞についても工夫をした。まず、本研究では、効率よく線虫が感染し、マメ科植物の中では、比較的根が細いレンゲ(Astragalus sinicus)を最適な材料として選んだ。さらに、線虫感染時の特定の細胞内構造変化を可視化できるように、アグロバクテリウム菌(Agrobacterium rhizogenes)を用いたレンゲ根の形質転換系を整えた。そして、それらを用いて二光子顕微鏡によるタイムラプス観察を行うのに最適な線虫感染実験系を確立した。二光子顕微鏡によって観察した所、これまでの知見に比べて根の内部にいる線虫や植物のオルガネラを明瞭に観察できた。 次に、合胞体の全組織イメージング系の確立を行った。本研究ではレンゲと二光子顕微鏡を用いる感染実験系に最新の透明化試薬、ClearSeeを組み合わせることで、非破壊的に合胞体の全貌を捉えられる全組織イメージング系を確立し、感染組織全体の観察を行った。蛍光試薬により細胞壁や核を可視化し感染組織を観察したところ、合胞体を形成する細胞の細胞壁は、独特なパターンに再構成されることや、合胞体周辺の核の肥大化などの異常が明らかになった。この技術を用いて、今まで観察出来ていなかった感染初期の合胞体から感染後期の成熟した合胞体まで全てを観察できるため、合胞体内部の形態変化を空間的に捉えることが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの先行研究における網羅的発現解析(トランスクリプトーム解析)から、シストセンチュウ感染時に発現変動の起こる遺伝子群について明らかになっている。しかし、それらは感染後期に着目しているものが多く、感染確立に重要な初期の応答に必須な因子は殆ど分かっていない。そこで申請者は、合胞体形成初期から見られる細胞融合は、感染の鍵となる現象と考え、その細胞融合を指標とすることで感染の初期に働く、重要な因子の探索が行えると着想した。現研究室は、植物の生殖細胞についてのトランスクリプトーム解析を進めており、微量なサンプルを扱うノウハウが蓄積しているため、感染細胞を特異的に単離し、解析を行うことができると考えた。 また、前述の発現解析により感染に必須な遺伝子もいくつか同定されている。しかし、感染後期に着目している事に加えて、それら因子の詳細なイメージング解析などが行われていないため、それらが実際の合胞体形成時に植物組織内のどこで、どのように働いているのかなどは確かめられていない。申請者は、これまでに、植物の時空間的イメージング系を確立し、線虫と植物との生物間相互作用を可視化することに成功しただけでなく、アグロバクテリウム菌を用いたレンゲの毛状根形質転換系を確立している。この形質転換技術を応用すれば、宿主植物において遺伝子の過剰発現や発現抑制を行う事が可能であるため、本研究のトランスクリプトーム解析や先行研究で得られた合胞体の形成に必須な因子が合胞体形成のどの段階に寄与しているかについて、イメージング解析が行えると考えた。本研究では、合胞体および線虫分泌腺のトランスクリプトーム解析、そして、時空間的イメージング技術を用いた合胞体形成過程の観察から、感染に必須な細胞融合の鍵遺伝子の同定を目指す。
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Research Products
(3 results)