2015 Fiscal Year Annual Research Report
新規エネルギー物質ロケット推進薬の高速燃焼現象解明と制御技術の確立
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15J04632
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
伊里 友一朗 横浜国立大学, 環境情報学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | エネルギー物質 / ロケット推進薬 / 燃焼 / 凝縮相反応 / 素反応 / 熱分析 / 反応速度論解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究目標とする「新規エネルギー物質ロケット推進薬の高速燃焼現象解明と制御技術の確立」に関して、特にエネルギー物質が呈する化学反応の解析とモデル化に関する成果を得た。特に低環境負荷・低毒性推進剤原料である硝酸アンモニウムおよびアンモニウムジニトラミドの燃焼・分解機構の解析・モデル化について大きく進展した。熱分析を中心とした機器分析および量子化学計算を中心とした計算化学手法により反応機構を特定し、素反応レベルの定量的な反応機構モデルを構築した。上記2物質は高速分解・燃焼を呈する物質であり、反応機構に関しては長らく不明であった。本研究により実験・計算の両面からリーズナブルな反応機構が特定され、定量的な反応速度モデルが構築できた。定常的な燃焼をシミュレーションする上では、素反応レベルのモデルを用いた解析は不要であるが、着火・消炎などの過渡現象を再現するには素反応レベルの解析が必要不可欠である。そして、この着火・消炎の制御がロケット推進システム設計をするうえで最も重要な事項である。本研究成果は上記推進剤を使用した推進システム設計に資することが期待できる。 これら研究成果を英文筆頭論文:5報(共著論文:2報),国際会議発表:4件,国内学会発表:19件等にて公表した。中でも「硝酸アンモニウム,特に酸化銅混合物との熱分解機構に関する研究」により,平成27年度火薬学会奨励賞を受賞した。また、平成27年度火薬学会春季および秋季大会では優秀講演賞を受賞した。これらの成果をもとに「無機エネルギー塩の熱分解・燃焼反応機構に関する研究」のタイトルで学位論文を執筆し、博士後期課程において6ヶ月の短縮修了により博士(工学)の学位を取得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までの目的は、高エネルギー物質推進薬組成物(アンモニウムジニトラミド、硝酸ヒドロキシルアミン、硝酸アンモニウム、ヒドラジン)の詳細反応モデル構築を行うことであった。アンモニウムジニトラミドおよび硝酸アンモニウムに関しては、実験手法および計算手法を組み合わせて、反応機構を特定し定量的な素反応モデル構築を達成することができた。順次、他の物質に関しても解析とモデル化を進めることができている。このような観点から、概ね研究は順調に進展していると判断する。 計画以上に進展していると判断できない理由は、未解決のさらなる技術的課題も明らかになったためである。第一は作成した燃焼反応モデルは実験値による検証により、改良の余地があることが示された。具体的には、単分子反応の圧力依存性を考慮したモデルへ改良する必要がある。現状のモデルは高圧極限における反応速度パラメタを採用しており、低圧条件では反応速度を過大評価してしまっている。第二は凝縮相における熱力学データ算定の精度である。量子化学計算は液相分子の熱力学データに関して良好な予測を与えないことが示された。具体的には、溶媒分子との衝突により並進・振動のエントロピーが影響を受ける効果を現状の量子化学計算(溶媒効果を含む)では取り込むことができなかった。熱力学データは分子の安定性や比熱に影響を与える重要な物理化学パラメタであり、高精度の予測法が必要である。ラジカル種など実験的に熱力学データを取得できない分子に関する熱力学データ予測手法が課題である。これらの課題解決について今後取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
第一にこれまでに引き続き高エネルギー物質推進薬組成物の詳細反応モデル構築を行う。詳細反応モデルは素反応式、化学種の熱力学データ、各素反応式の速度パラメタからなり、これらを実験および計算的手法を組み合わせて総合的に取得する。前年度までは、硝酸アンモニウムおよびアンモニウムジニトラミドに関する反応モデル構築を達成したので、今年度は硝酸ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン、ヒドラジンに関する解析とモデル化を実施する。これによって新規ロケット推進剤として現在、利用検討されている物質群のほぼ全てについて包括的に扱えるモデル構築がなされることになる。手法は熱分析を中心とする機器分析を用いた実験的アプローチと量子化学計算による理論的アプローチを組み合わせた前年度までの方法を踏襲する。さらに今後はモデル化した反応機構モデルを用いて、流体現象を考慮した着火・起爆のシミュレーションに取り組む。 第二に、貯蔵時の不純物混入(塩化物や金属酸化物の混入)を想定した熱安定性の低下メカニズムの解明と発災を想定した影響評価(発生圧力、放射熱)を行う。メカニズム解明は熱分析、In-situ分光分析および熱挙動-生成ガス同時分析手法による実験的手法と量子化学計算、詳細反応シミュレーションによる理論的手法を複合して解析する。解明したメカニズムを基に各種防災データ(暴走までの猶予時間、断熱暴走温度など)をシミュレーションにより求め管理基準について提言する。発災時の周囲の影響評価は発生圧力の測定および燃焼熱計算から爆風圧と放射熱を見積もり、フィジカルハザード解析ソフトウェア(DNV社製Phastなど)を利用し、社会リスクおよび個人リスクを算定し、リスク受容に関して議論する。
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