2016 Fiscal Year Annual Research Report
転写と染色体分配の制御破綻に起因する多段階発がんとがん幹細胞性獲得機構の解析
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15J04864
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
長谷川 敦史 東北大学, 加齢医学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | DS-AMKL / 白血病幹細胞 / GATA1 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ダウン症随伴急性巨核芽球性白血病(DS-AMKL)における白血病幹細胞の同定と性質解明を目的としている。平成27年度までに、DS-AMKL細胞を超免疫不全マウス(NOGマウス)に異種移植することにより、白血病細胞を安定的に増幅・供給できる実験系を樹立した。細胞表面形質の発現パターンにより白血病細胞を分画化し、NOGマウスへの移植実験により、本白血病における白血病幹細胞は、CD34陰性かつヘキスト色素高染色性細胞分画に存在すること、またCD117発現の有無では分離できないことがわかった。 平成28年度は、CD34陰性分画の中から、更に別の指標を用いることで真の白血病幹細胞濃縮分画の絞り込みを試みた。白血病発症マウスに抗癌剤(5-FU)を投与すると、ヒト造血幹細胞の指標となるCD45RA陰性細胞分画、CD49f陽性細胞分画の割合が増加することがわかった。この抗癌剤耐性を持つ細胞分画に着目し、各細胞表面形質陽性集団、陰性集団をそれぞれ単離し、移植実験を行った。その結果、CD34陰性分画の中では、CD45RAおよびCD49fの発現の有無に関わらず白血病の発症が認められ、CD45RAおよびCD49fではCD34陰性分画の中から白血病幹細胞を分離できないことが示された。しかしこの結果は、抗癌剤耐性を持つ細胞集団中に白血病幹細胞が存在する可能性を否定するものではない。 さらに、核酸染色色素であるピロニンYとヘキストで染色し、共陰性となる細胞周期休止期の細胞集団、およびそれ以外の増殖期の細胞集団を検出した。単離した各細胞集団を用いて移植実験を行い、白血病発症が細胞周期特性の差異により影響を受けるか否か、現在経過を観察中である。本実験の結果と、先の抗癌剤耐性と関連する細胞表面形質の情報とを連結することで、白血病幹細胞分画単離の指標を探索できると期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究を推進するうえで、白血病細胞を安定的に増幅・供給できる実験系の樹立、白血病幹細胞濃縮分画を単離できる細胞表面形質発現パターンの解明、白血病幹細胞の性状解明という三つの段階を経る必要がある。現在までに、ヒト由来DS-AMKL細胞のNOGマウスへの異種移植により、巨核球特異的CD41a表面形質を発現するAMKL様病態が形成されることを確認し、また移植から解析までの最適なタイミングを見出すことができた。これにより白血病細胞を安定的に増幅・供給できる実験系の樹立に成功したと判断される。 引き続き、ヒト-マウス異種移植系を用いて白血病幹細胞濃縮分画の単離を試みた。白血病幹細胞を特異的に識別する指標として、造血幹細胞や従来から多くの報告があった白血病幹細胞に特異的な表面形質であるCD34の有無、ヘキスト染色性の差異、抗癌剤に対する抵抗性、および細胞周期特性に基づき、白血病細胞の分画化と移植実験を行った。その結果、本DS-AMKLにおける白血病幹細胞は、CD34陰性およびヘキスト高染色性分画に存在することが示唆された。さらに同分画内には抗癌剤耐性を有する細胞集団が含まれることがわかったが、この集団の中から白血病幹細胞を濃縮することができる表面形質の解明には至っていない。 これまでに同定することができたCD34陰性分画は、白血病細胞全体の中で非常に大きな割合を占めていることから、真の白血病幹細胞濃縮分画と定義するための指標としてはまだ不十分である。そのため白血病幹細胞の特異的な性状解明を目指すうえでは、今後更なる指標を同定していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞表面形質の発現パターンだけでなく、造血幹細胞と白血病幹細胞の質的類似性に着目することで、白血病幹細胞の同定法を絞り込むための情報を得ることができると考えた。そこで、フローサイトメーター解析と移植実験を基盤とした研究方針に先立ち、造血幹細胞の性質解析を軸に実験系を再構築することとした。GATA因子が強く関与する造血幹細胞機能のひとつとして、小胞体ストレス応答制御の可能性が近年着目されている。造血幹細胞での特異的な小胞体ストレス応答における、GATA因子を起点とする転写ネットワークの役割を解析することを新たな目的とし、マウス骨髄細胞を用いた小胞体ストレス定量系、および網羅的トランスクリプトーム解析系を現在構築している。 本機構を明らかにすることができれば、本研究で用いているDS-AMKLにおいて、小胞体ストレスの蓄積あるいは防御応答の程度を指標とすることで、造血幹細胞に類似する白血病幹細胞濃縮分画の同定、さらには生存能や白血病再建能等の性質解明へとつながることが期待される。
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