2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J05052
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
佐古 博皓 早稲田大学, スポーツ科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 一過性運動 / 翻訳 / 次世代シーケンサー / リボソームプロファイリング |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度における当初の目的は、生体でのリボソームプロファイリングの技術を確立し、マウスの一過性運動モデルに応用を試み、次年度以降の詳細なデータ解析に繋げることであった。リボソームプロファイリングを用いることで、どのメッセンジャーRNA(mRNA)がどの程度タンパク質に翻訳されているのかを網羅的に解析することができ、これまで技術的な問題のため看過されてきた網羅的翻訳動態変化の解析が可能となる。それによって、運動が及ぼす影響においてこれまで研究されてきた遺伝子の発現動態変化に加えて、本研究においては新しく「翻訳」という側面から現象を捉えることができる。そのため本研究では、既知の遺伝子発現レベルの制御に加えて、翻訳レベルにおいてどのような作用機序が一過性運動時に存在するのかを世界で初めて網羅的に検証することができる。 実際の初年度における研究実績として、当初の予定を上回る進捗があった。具体的には、生体でのリボソームプロファイリングの技術が確立でき、マウスの一過性運動モデルに応用できたことに加え、網羅的解析によって得られたデータを独自に構築したプラットフォームで解析し、一過性運動時の骨格筋における翻訳レベルの新規作用機序を示すことができた。さらに、リボソームプロファイリングを試験導入する際に用いたマクロファージの急性炎症・抗炎症モデルのデータを再解析することで、炎症・抗炎症刺激により誘導される翻訳動態変化に関連する新しい作用機序因子を示した。国際・国内学会等でこれらの成果を報告するとともに、国際誌(計2報)にもそれそれのデータを発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度における進捗状況は当初の予定を上回るものであり、以下の通り大別することができる、①マウスの一過性運動時における作用機序解明。②マクロファージの急性炎症・抗炎症時における翻訳動態解析。 ①においては、網羅的翻訳動態解析法(Ribosome profiling; Ribo-Seq)と転写動態を網羅的に解析可能な網羅的遺伝子発現解析(mRNA-Seq)を併用することで転写動態非依存的な翻訳動態変化を捉えることができた。具体的には、非運動群と一過性運動直後の群の骨格筋における転写・翻訳動態変化を比較し、翻訳動態変化が特に顕著であった遺伝子を特定した。当初の予定通り、リアルタイムPCRとウェスタンブロットを用いて網羅的解析で得られた結果を確認した。当初の計画では、骨格筋に加えて血液細胞も解析する予定であったが、研究奨励費が減額されたため予定通り計画を行うことができなかった。しかし、得られた結果は論文としてまとめ国際誌に発表することができた。 ②に関しては、マクロファージRAW264細胞株におけるリポ多糖(LPS)とデキサメサゾン(DEX)による炎症・抗炎症作用をRibo-SeqとmRNA-Seqにより解析することで、急性抗炎症作用時の翻訳動態変化を調節していると思われる新規シス制御配列因子を発見し論文としてまとめ、国際誌に報告した。 さらに②に関連して、生物学における新しい作用機序概念の可能性も示唆できた。具体的には、生理的な刺激等の変化によって翻訳中のリボソームの速度が変化し、それに伴い生成されるタンパク質の折り畳まれ方が変化し、タンパク質の形・機能も変化するという知見である。RAW264の急性炎症前後で特定の遺伝子配列の翻訳速度が顕著に変化しており、当該遺伝子により産生されるタンパク質の形も変化しているというデータを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
①マウスの一過性運動時における作用機序解明、②マクロファージの急性炎症・抗炎症時における翻訳動態解析における今後の研究の推進方策は以下の通りである。 ①に関しては、初年度は非運動群と運動直後の群に対してのみ解析を行ったが、今後は運動後1時間後、2時間後、4時間後、6時間後の群に対しても同様に解析を行う。それによって、転写・翻訳動態の経時変化を捉えることができ、よりダイナミックな作用機序の解明が期待できる。また、既知の遺伝子情報に存在しない新規遺伝子や新しい翻訳のイソフォームのスクリーニングも行う。mRNA-SeqやRibo-Seqによって、新規遺伝子や新しい翻訳領域の特定などが可能となるため、一過性運動後の経時変化に伴って新規遺伝子の発現変動の有無や、遺伝子の翻訳領域の変化の有無を検証する。網羅的解析によって得られる候補因子は、リアルタイムPCRやウェスタンブロット、その他分子生物学的手法を用いて検討する。 ②については、翻訳速度変化に伴うタンパク質の形状・機能変化という概念を詳細に検討する。具体的には、分子生物学的手法等を用いて、初年度に認められた急性炎症刺激がもたらす翻訳速度変化を“knock down”もしくは“over expression”させることで、観測されたタンパク質の形状変化が翻訳速度由来のものであることを確認し、他の要因による形状変化でないことを検討する。さらに、速度変化によるタンパク質の形状変化が、実際にそのタンパク質の機能にも影響を及ぼすのかも検討する。
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Research Products
(6 results)